広報PR担当者は企業情報を発信する立場として、伝えたい情報を適切な表現で伝える必要があります。社会に発信する情報として「適切」な表現を判断するために、重要となるのが「ポリコレ」です。
ネットニュースを中心に、目にすることが増えてきた「ポリコレ」ですが、このキーワードはトレンドワードではなく、歴史ある表現だとご存じでしょうか。
本記事ではポリコレとは何か、具体的な事例を踏まえ、企業が対策しておきたい5つのことをご紹介します。
ポリコレとは?意味をわかりやすく解説
ポリコレとは、特定の人物やグループに対して、差別的な意味、誤解や偏見を含まないように配慮する考え方や対策のことです。
正式名称は「ポリティカル・コレクトネス(political Correctness)」であり、略称の「ポリコレ」と使われることが一般的。頭文字を取り「PC」と呼ばれることもあります。直訳すると「政治的正しさ」という意味を持ち、特定のグループに対して差別的な意味や誤解を含まぬよう、政治的・社会的に公正で中立的な表現をすることを指します。
ポリコレの発祥・由来
「ポリコレ」という言葉は、近年注目を集めていますが、その歴史は100年以上にもなります。ポリコレの発祥は、1900年代に入った頃の政治的活動にあり、アメリカを中心に始まりました。当時は人々に「政治的正しさ」の厳守を求める言葉として利用されていました。その後、ポリコレは「政治的正しさ」に留まらず、人種や民族、ジェンダーに由来する差別が助長されることを防ぎ、政治的・社会的に公正な表現を指す表現として世界各国に浸透しています。
ポリコレの具体的な事例
ここからは、実際に、現在の「ポリコレ」が指す具体的な事例を見ていきましょう。
人種における表現
人種における表現は「ポリコレ」のなかでももっとも触れる機会の多いものなのではないでしょうか。
例えば、黒人は「Black」と呼ばれていたことがありました。しかし、「Black」という言葉の背景には侮辱的・差別的な意味も含まれていたため、「African American」という表現に変化したという背景があります。肌の色から連想される「Black」という言葉は、差別的な意味や誤解を含むという解釈がされる一方、「African American」という言葉はアフリカ系アメリカ人に特定されるという点でほかの課題が出てきます。
「Black」のルーツはアフリカ系アメリカ人に限定されず、「African American」にアイデンティティを感じられない人が一定数存在することになります。ポリコレの代表的な事例として挙げられ、かつ解消されていない表現なのです。
性別における表現
ポリコレの影響を受けて、特定の性別を連想するような表現が変化しています。
職業の名称
職業の名称は、近年ポリコレの影響を大きく受けている事例のひとつです。
これまで特定の性別を連想する名称が多く存在しました。例えば、男性を連想する「カメラマン」、女性を連想する「保母」「看護婦」、男性と女性で名称が変更される「スチュワーデス」「スチュワード」が挙げられます。
しかし、現在は「フォトグラファー」「保育士」「看護師」「キャビンアテンダント」といった、性別に関わらない名称に変更されています。これらは日本国内に限らず、国際的な名称も同様です。
敬称
名前の後ろに付ける敬称も、ポリコレの影響により変化しています。
男性の名前の後ろに付けられていた「くん」、女性の名前の後ろに付けられていた「ちゃん」「さん」といった敬称は、男女統一で「さん」が基本となっており、敬称による性別差別を防ぐだけでなく、性的志向にも配慮された表現として世間に浸透しています。特に教育現場では、敬称の統一だけではなく男女別の出席番号付けを廃止するなどの変化が起きています。
また、海外では男性の敬称は「Mr.」で統一されている一方で、女性の敬称は既婚者はが「Mrs.」、未婚者はが「Miss.」と婚姻状況によって分けられていました。現在では女性だけを既婚、未婚で判断するのは差別的であるとされ、全ての敬称が「Ms.」で統一されています。
服装規定
服装の規定も、性別による影響が大きいものです。これまで取りだたされていなかった事項もポリコレの影響によって注目を浴びています。
一例として、学生の制服が挙げられます。これまで男性はズボン、女性はスカートといった規定が一般的でした。しかし性別により服装を規定することは差別的であるという風潮が強くなり、特に女性に対して制服を選択することができる学校が増えてきています。
また、スポーツにおける服装も男性と女性の規定では差があり、女性は肌を露出することが求められていたケースは少なくありません。このような実態も、ポリコレの影響を受け見直されはじめています。
指向・思想における表現
指向や思想においても、表現しやすい風潮に変化してきているといえるでしょう。
性的指向
多種多様な性的指向が存在する中で、特定の指向性が非難されたり、侮辱されるといった出来事はこれまで多くありました。しかし今では「LGBTQ」という概念が認知されたことで、特定の性的指向を思考や概念から排除することなく受け入れる社会へ変化してきています。
例えば、戸籍上の性と性自認が異なる人々は、自身の意志と反する規定に従わざるを得ない状況がありましたが、ポリコレの影響を受け、差別や誤解を招く表現が排除されてきており、自身の指向に基づいた選択が可能な場面が増えています。
宗教の選択
宗教の選択においても差別的表現をされてきた歴史があります。信仰している宗教以外を詳しく知る機会は少なく、知識不足、理解不足により、特定の宗教を信仰する人々の心情を傷つけるケースは少なくありませんでした。
社会的に公正な表現が求められるようになった今、信仰する宗教による差別は少なくなっています。しかし政治と密に関わる部分も少なくなく、ポリコレの表現をもってしても議論が絶えない事項のひとつといえるでしょう。
企業がポリコレを重視するべき理由とは?
ポリコレは個人の発信はもちろん、個人の言動だけでなく、企業活動全体にも大きな影響を与える重要な概念です。
社会の価値観が多様化する中で、企業も従来の常識にとらわれず、多様性への理解と尊重を前提とした発信や行動が求められています。特に広報・PR部門のように社外と接点を持つ部署だけでなく、人事や経営層を含め、社内全体でポリコレへの理解を深めることが企業の信頼性向上につながります。

ダイバーシティ経営には必要不可欠
「ダイバーシティ」という概念が広がってきている中で、企業には「ダイバーシティ経営」が求められています。多様性を尊重するダイバーシティ経営は、企業が競争力を維持・向上させるうえで不可欠な戦略です。ポリコレはその基盤となる考え方であり、性別、人種、年齢、国籍、宗教、障がいの有無にかかわらず、すべての人が働きやすい環境づくりに直結します。
雇用の拡大
労働人口の減少が深刻化する中で、多様な人材の活躍が企業の持続性を左右します。高齢者や外国人労働者、障がいのある人など、これまでマイノリティとされていた層の雇用機会を積極的に広げることが不可欠です。
少子高齢化に伴う労働人口の減少は深刻な社会問題となっており、現在約6,700万人である就業者数が2040年には約5,200万人に減少するという予測もあります。
この現状に対処するためには、年齢や国籍、価値観の異なる人材を受け入れられる柔軟な体制を整えることが必要です。ポリコレの視点を導入することで、多様な人材が安心して働ける環境を構築できます。
新たな事業視点の拡大
多様な就業者の活躍により、これまでになかった視点での事業やサービスの展開も期待できます。退職後の高齢者の経験を活かしたアドバイザー役としての採用、70歳までの就業確保措置の努力義務が課されたことで雇用延長、再雇用も期待されます。
そして、これまでとは異なる経験や考え方を持つ就業者が増えることにより、新たな制度策定や環境整備が必要となります。例としては、高齢者の生活範囲を反映した職場環境や多様な宗教に合わせた食事メニュー、礼拝可能な場所の用意、多言語対応できる業務対応フローなどが挙げられます。また同時に、一緒に働く就業者のポリコレに関する考え方の醸成は欠かせません。
企業としては制度策定や環境整備などのハード面、就業者同士の人間関係にも配慮したソフト面、両面での対策が求められるでしょう。
【就業者数についての参考元】
一般職業紹介状況(令和6年11月分)について | 厚生労働省
SDGs対策とポリコレの関係
ポリコレの概念は、人類と地球の持続可能な未来を目指す国際的な取り組みである「SDGs(持続可能な開発目標)」とも密接に関係しているといえるでしょう。
特に、以下の3つの目標と深く結びついています。
- 目標5:ジェンダー平等を実現しよう
- 目標10:人や国の不平等をなくそう
- 目標16:平和と公正をすべての人に
差別的な表現を避け、多様性を尊重するポリコレの実践は、ジェンダーや人種、障がいの有無に関係なく、すべての人々が平等に扱われる社会の形成に寄与します。また、ESG投資や企業評価指標においても、多様性への取り組みはますます重視される傾向にあり、ポリコレへの配慮は単なるイメージ戦略ではなく経営戦略上の重要テーマになっています。
企業がポリコレ対策として実施したい6つのこと
企業が対策すべきポリコレ対策としては、どのようなものが挙げられるでしょうか。すでに就業している就業者への対策と、求職者への対策という2つの観点から、6つの事項をご紹介します。
就業者へ向けた対策
まず必要となるのは、就業者へ向けた対策です。対外的に発信する内容だけでなく、社内への対策にも意識を向ける必要があります。
1.ハラスメント予防の対策
社内でポリコレを重視すべき場面として、もっとも象徴的なのはハラスメントが生じるシーンです。2020年6月のパワハラ防止法試行後、研修実施や直接的な注意など、企業の中でも十分に対策を講じてきているのではないでしょうか。
ポリコレを重視して施策を実施することにより、必然的にハラスメント対策にもつながります。人種や民族、ジェンダーに対する意識を持ちながらコミュニケーションを取ることができれば、ハラスメントを過度に警戒することなく、円滑なコミュニケーションを実現することができるでしょう。
2.グローバル対応の対策
今後ポリコレを検討すべき事項として、もっとも可能性が高いもののひとつとしてグローバル対応の対策が挙げられます。少子高齢化が加速する日本社会において、新たな市場を求め海外へ進出する企業は少なくありません。また、国籍に囚われない採用も広まっています。
海外企業との取引、言語や文化が異なる方とのやり取りの際は特に、就業者が無意識に差別的な発言をしてしまうことが考えられます。このことが原因で、企業同士の取引に支障をきたす可能性、就業者同士のトラブルが起きる可能性があります。ポリコレの理解推進とともに、コミュニケーションなどの注意点を記載したマニュアルなどを用意しておくと安心でしょう。
3.制度や取り組みに関する対策
企業ごとに設定された福利厚生や給料制度は、ポリコレを意識した内容になっているでしょうか。ポリコレ対策を行うのであれば、男女共に同様の制度となるような工夫が必要です。
育児休暇や介護休暇の整備を行い、その他アニバーサリー休暇など婚姻関係がない家族への配慮、宗教による必要休暇があるとよいでしょう。
4.発信におけるガイドラインの策定
企業が行う広告、SNS投稿、プレスリリースなどの外部発信においても、ポリコレの視点を取り入れたガイドラインを設けることが重要です。無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)や差別的なニュアンスが含まれていないかをチェックする体制や、レビュー工程の導入が効果的です。
ガイドラインには、NGワードや表現の注意点、対象とする多様な読者層への配慮事項などを盛り込み、社内で共通認識として運用します。これにより、ブランドイメージの毀損を防ぎ、信頼性の高い広報活動が実現できます。
求職者へ向けた対策
求職者へ向けたポリコレの対応も非常に重要です。会社の内部情報が見えにくいからこそ、ポリコレ対策が安心感につながります。
1.求人募集時の対策
これまでの募集要項には、性別を限定するような職種表現や服装規定が多く見受けられました。今後は各企業が意識的に、従来の表現を変更していくことが求められます。
具体的には、就業時や選考時に男女で異なる服装規定を設けていないか、特定の性別に限定し募集告知を行っていないか、などが挙げられます。
ポリコレの観点から、性別による服装、頭髪、髭やネイルの規定や、制度・福利厚生の差がないかなど確認しておきましょう。
2.面接時の対策
面接時の禁止事項として知られる質問は、ポリコレが意識されています。
例えば出身地に対する質問。面接時は、出生に関する質問をすることはタブーとされていますが、これはポリコレの観点から考えれば当然のことと言えます。生まれ持った人種や民族といった情報が、無意識のうちに差別的に扱われたり、能力と比例して考えられないように、というものです。
例えば、以下のような質問は厳禁です。
- 家族関係に関する質問
- 居住地に関する質問
- 自身の性的指向に関する質問
- 信仰する宗教に関する質問
質問内容を細かく規定せず、面接官に委ねている企業は、今一度ポリコレを重視した質問事項になっているか確認を行うことが大切です。
ポリコレを重視することで、ダイバーシティの受け入れに一歩前進
本記事では、ポリコレとは何か、そして具体的な事例を踏まえ、企業が対策しておきたいことについて紹介してきました。
ポリコレは個人の発信に留まらず、企業の運営にも大きな影響を及ぼします。広報担当者として情報発信の際に意識することはもちろん、社内外を通じたコミュニケーションの中で常に意識をしておく必要があります。
一見すると表現の自由が狭くなるように感じるかもしれませんが、不特定多数の人々へ届ける情報を扱う場合、非常に重要な内容です。
本記事を参考に、ポリコレについて正しく理解し、意識をアップデートしていきましょう。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
ポリコレに関するQ&A
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