「広聴」は、ステークホルダーの意見や要望をヒアリングする活動のことを指す言葉。自治体の「広報広聴課」といった部署名を耳にしたことがある……という方もいるのではないでしょうか。
近年、企業においても「広聴」が重視されるようになってきています。本記事では、企業が広聴を実施するメリットや方法、注意点を解説します。
「広聴」とは?
まずは、「広聴」という言葉の意味を理解しましょう。似た言葉である「公聴」や「ソーシャルリスニング」との違いも解説します。
広報が知っておきたい「広聴」の意味
「広聴」とは、社内外のステークホルダーから自社に対する評価や要望などをヒアリングすることを意味します。身近なところでは、スーパーマーケットなどで「お客さまの声」を記入できる用紙が置かれていたりしますが、このような取り組みも広聴活動に該当します。
広報PR活動が企業と社会(パブリック)との関係構築を目的としている以上、双方向のコミュニケーションを行うことが前提となります。自社が伝えたい情報を発信するだけではなく、ステークホルダーの要求や批判に耳を傾け、互いに理解を深める行為は信頼関係の維持・構築に欠かせません。
情報を発信する「広報」活動に加え、「社会の動向をキャッチする」「発信した情報が社会にどのように受け止められたかを把握する」という「広聴」活動の双方によって、初めてパブリック・リレーションズが構築できるのです。
また、自治体の場合、「パブリックコメント」(政令や省令などを決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、市民から意見・情報を募集する手続き)に関連する取り組みとして「広聴活動」が行われていることもあります。
「広聴」と「公聴」との違い
「広聴」のほかに「公聴」という言葉も存在し、どちらも同じく「こうちょう」と読みます。
「広聴」と「公聴」の違いについて、公益社団法人日本広報協会は、下記のように定義しています。
行政機関では、「広聴」も「公聴」も、「国民や住民の行政に対する意見・要望などを聴く活動」を表す同義の言葉として使われています。
ただ、一般的には「広聴」のほうが多く用いられており、国語辞典などでも、行政の広聴活動を意味する用語としては「広聴」という漢字が使われています。
「広聴」と「公聴」の違い(広報Q&A)
企業活動の文脈においては、「広報」と対をなす意味でも「広聴」を用いることが多いでしょう。
「広聴」と「ソーシャルリスニング」との違い
「広聴」と似た文脈で使われる「ソーシャルリスニング」という言葉があります。
「ソーシャルリスニング」は、広聴活動を行う手法のひとつ。SNSやブログ、掲示板、口コミサイトなどで発信された情報を収集・分析するというものです。
マーケティング目的で実施されることもあり、専用のツールやサービスなども多数存在します。
ソーシャルリスニングについて、詳しくはこちらの記事で解説しています。
企業が広聴活動を行う3つのメリット
行政機関が広聴活動を行うのは、国民や住民の声を聴くため。では、企業が広聴活動を行うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。企業の広聴活動における3つのメリットをご紹介します。
1.ステークホルダーからの信頼獲得につながる
企業が広聴活動を行うメリットの1つ目は、広聴活動を通じて、企業としての信頼を獲得できること。自社に対する要求や批判に対しても真摯に向き合っていく中で、ステークホルダーを大事にする企業であると認識してもらえるようになります。
例えば顧客をステークホルダーの一例として考えてみましょう。toC事業を運営する企業の場合、生活者一人ひとりは多数の顧客の中の一部に過ぎません。しかし、ひとりの生活者のポジティブな意見・ネガティブな意見をきちんと拾い、改善の姿勢を取ることができれば、多くの人から「顧客の意見に向き合ってくれる企業」と信頼を寄せてもらうことができます。
逆に、企業として顧客の意見に耳を貸さない姿勢を取っていると、SNSや口コミを通じて自社の悪評が広まってしまう可能性さえあるでしょう。
2.戦略的な広報PR活動が行える
企業が広聴活動を行うメリットの2つ目は、戦略的な広報PR活動が行えることです。広報PR活動を行ううえで、自社を取り巻く状況を正確に把握することは非常に重要なステップ。
現状を正確に把握することで、理想から逆算して目標を設定し、必要な施策やKPIを打ち出していくことができます。
また、自社が抱える現状の広報PRの課題を明らかにすることで、広報PR活動の意義や役割に対する社内からの理解も得やすくなるでしょう。
戦略的に広報PR活動を行うメリットや具体的な流れについては、下記の記事でも解説しています。
3.従業員のモチベーションが向上する
企業が広聴活動を行うメリットの3つ目は、従業員のモチベーションが向上することです。
広聴活動を行うことで、さまざまなステークホルダーからポジティブ・ネガティブ両面での意見を聞くことができます。その中には、自社の特定のサービスやキャンペーン、イベント、機能について言及しているものもあるでしょう。従業員にとって、自分と関わりのある取り組みについて社外から率直な感想・意見を聞くことは、自分の業務が社会にどのようなインパクトを与えているかを実感でき、モチベーション向上につながります。
企業が行いたい「広聴活動」の具体例とは?どんな方法で行うの?
広聴活動の概要と企業が実施するメリットが明らかになったところで、ここからは、企業が広聴活動に取り組む際の具体例や方法を解説します。
1.顧客・ユーザーに対するアンケートやインタビュー
1つ目は、顧客・ユーザーに対する広聴活動です。
自社のサービスや商品を実際に使う人・契約する人に意見を聞き、フィードバックをもらいます。サービス・商品の使い勝手だけではなく、ブランドイメージや認知度、選好度なども調査できるとよいでしょう。
アンケート調査など回答者の数が多い際は選択式の項目が多いほうが集計しやすくなりますが、有用な意見は自由回答から得られることも多くあります。自由回答欄も設けておくとよいでしょう。
また、自社がターゲットとしたい層が明確に決まっている場合、対象者を抽出してインタビュー調査を依頼するのも有効です。ターゲットの購買行動や嗜好を深掘りしたい場合は個別インタビュー、さまざまな意見を引き出したい場合はグループインタビュー(座談会)と、目的に応じて手法を使い分けます。
アンケート | インターネット調査 | Web上で設定した調査項目ごとにアンケートに回答してもらう |
郵送調査 | 対象者に調査票を郵送し、回答後に返送してもらう | |
サンプル調査 | 自宅にサンプルを送付し、使用感などを回答してもらう | |
インタビュー | 個別インタビュー | ターゲットとなる人物にヒアリングを行う |
グループインタビュー(座談会) | ターゲットとなる複数の人物グループに、調査したいテーマについて話し合ってもらう |
こういった大規模な調査の設計には知識や経験が必要となることから、専門の調査会社・マーケティング会社に依頼することが多いでしょう。一方、日々自社に寄せられるお問い合わせ内容を集計したり、実店舗があればご意見箱を設置したりするだけでも十分に得られるものがあります。
2.メディア関係者に対するヒアリング
メディアは、すべてのステークホルダーにとっての重要な情報源。そのため、自社がメディア関係者からどのように捉えられているかを知ることで、自社の認知に関する根本的な課題を把握することができます。
個別に関係のあるメディア関係者がいれば、時間をとってもらい質問に答えてもらいましょう。多忙なメディア関係者に配慮し、できる限り端的・手短に済ませたいところです。
もし相談できるメディア関係者がいない場合は、PR会社にメディアヒアリングを依頼してみるのも手です。
3.ソーシャルリスニング
上述のように、SNSを通じて自社に関する意見を収集する「ソーシャルリスニング」も広聴活動の重要な手法のひとつです。
生活者のリアルな意見を聞くことができたり、炎上しやすいトピックなどの潜在的なリスクを早期に検知できるなどのメリットがあります。発信者の年齢や属性などがわかりにくい点には注意が必要です。
詳細は下記の記事を参考にしてみてください。
4.従業員サーベイ
従業員も企業にとって重要なステークホルダー。従業員に対するサーベイ(調査)も広聴活動のひとつとなります。
労働環境や事業環境が流動的に変化する現代、組織としての強さが企業の優位性をも左右するようになってきています。従業員の声にしっかりと耳を傾け、従業員がモチベーション高く働ける環境を整えることは企業にとって重要な課題です。
具体的には、従業員に対するアンケートを自社で作成し展開する方法と、専門のITツールを活用する方法、人事コンサルティング会社などに依頼する方法が考えられます。
- 従業員に対して職場環境や人間関係などの従業員満足度を把握する従業員サーベイ
- 従業員が企業や組織、そして商材に対してどれくらい愛着を持っているのかを調査するエンゲージメントサーベイ
など、調査目的に応じたさまざまな種類があります。
従業員サーベイについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
企業が広聴活動を行うときの注意点
広聴活動は膨大な量の情報を扱ったり、ネガティブな意見に触れたり、プライバシーに関わる情報を扱ったりすることもあるため、注意が必要です。企業が広聴活動を行ううえで注意したい点をご紹介します。
1.収集した情報は必ず整理し蓄積する
広聴活動では、時として膨大な情報量を扱うことも。入手したデータは組織全体の知識として蓄積していく必要があるため、誰が見てもわかりやすい形で整理しておくことが重要です。
調査結果はもちろん、調査の目的や時期、質問項目、使用したツールなど、担当者以外が見ても調査の概要が理解できるようまとめましょう。後述する個人情報の扱いには十分に留意しつつ、広報PR部門以外の人も必要に応じて社内で閲覧できる仕組みを整えておけるとベターです。
2.回答が必要な場合は真摯に対応する
さまざまなステークホルダーから意見を聴く中で、個別の回答が必要な意見をもらうこともあるでしょう。特に、サービスや商品に関して不満や不便を訴える声には、真摯に対応し、信頼の回復に努める必要があります。
顧客・ユーザーへのフォローの際には、カスタマーサポートの担当者と連携し、総合的な満足度や顧客体験の向上を目指しましょう。
3.個人情報は慎重に取り扱う
広聴活動では、分析の都合上ステークホルダーの年齢や属性といった個人情報も収集することが多くなります。個人情報は、各社が定める「プライバシーポリシー」や「個人情報保護方針」に従って慎重に取り扱ってください。
広聴活動を実施してステークホルダーの期待に応えよう
ステークホルダーと双方向のコミュニケーションを取ることのできる広聴活動は、企業が社会から信頼を獲得するうえで重要な取り組みのひとつです。
自社が伝えたい情報を発信するだけではなく、ステークホルダーの要求や批判に耳を傾け、互いに理解を深める行為は信頼関係の維持・構築に欠かせません。広聴活動は、パブリック・リレーションズに欠かせない概念といえます。また、広聴活動を行うことで広報PR戦略に活かすことができたり、従業員のモチベーション向上につながったりといったメリットも期待できます。
企業の広報PR担当者が広聴活動を行う際は、顧客・ユーザーやメディア関係者、従業員の声など、ステークホルダーごとに最適な調査手法を選択しましょう。SNS上で自社に関するコメントを収集・分析するソーシャルリスニングも近年注目されています。
広聴活動は個人情報を扱うことが多いため、データの管理に注意する必要があります。また、調査を実施して終わりではなく、データの蓄積・分析や回答へのリアクションも重要です。
広聴活動を行うメリットや注意点、具体的な手法を理解し、自社に合ったやり方で広聴活動を行い、ステークホルダーの期待に応えていきましょう。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
広聴に関するQ&A
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