長年愛され続けられる商品・サービスにはどんな特徴があるのだろう?どうしたら多くのファンが生まれるのだろう?そんな疑問があるあなたと一緒に見ていきたいのが、カルビー株式会社さんが発売するスナック菓子「じゃがりこ」のファンコミュニティの在り方です。
1995年の誕生以来欠かさぬファンレターへの手書きのお返事に始まり、2007年の会員制コミュニティーサイト「それいけ!じゃがり校」の開校、2021年の「じゃがり校」閉校、そしてSNSでのオープンなつながり形成など、ファンとの丁寧なコミュニケーションを行ってきました。
新しい商品が生まれても、時代が移り変わっても、コミュニケーションの在り方が変わっても、変わらない「じゃがりこ」にあるユニークな価値。熱狂的なファンコミュニティづくりの秘伝のレシピを、じゃがりこのマーケティング担当・谷澤さんに伺いました。
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カルビー株式会社 マーケティング本部 商品2部 1課
2016年にカルビーに入社。2020年より「じゃがりこ」ブランド担当としてブランド戦略立案、商品企画からブランドコミュニケーションまで、「じゃがりこ」のマーケティング活動全般に携わっている。
「食べだしたらきり(キリン)がない!」から脈々と受け継ぐDNA
── 谷澤さんが「じゃがりこ」のマーケティング担当になったのは2020年4月ということですが、任命当時はじゃがりことファンとの関係性についてどう見えていましたか?
谷澤さん(以下、敬称略):2016年から2020年4月までは「カルビーポテトチップス」の商品企画を担当していました。商品をアピールするために、PRや広告宣伝活動は行なっていましたが、お客さまと直接交流をする機会はなく、じゃがりこの担当部署に来てファンとの交流が盛んなことに驚きました。
例えば、じゃがりこが販売を開始した1995年以来、ファンの方からいただいたお手紙に社員が手書きで返事を書くことを続けているんです。今週も業務の中でファンの方へ年賀状を書く会がありました(笑)。小さなお子さんから高齢の方までメッセージをいただけて、幅広い年代から親しまれていることを感じています。
── キャラクターの「キリン」が味に関連したダジャレを言ったり、コスプレをしたり、親しみやすさがあるように思います。
谷澤:じゃがりこの大先輩ブランド・かっぱえびせんのキャッチコピーには「やめられない、とまらない♪」があります。じゃがりこも何かコピーを作らないかと考えた時に、ダジャレ好きな当時の開発担当者が、かっぱえびせんにあやかって、「食べだしたらきり(キリン)がない」というキャッチコピーを作ったんです。
「キリン」もダジャレから生まれたキャラクターで、コピーの「食べだしたらきり(キリン)がない」ができてから、全てのパッケージにダジャレが入るようになりました。ちなみに、「じゃがりこ」の由来も、開発担当者の友人であるりかこさんが、とてもおいしそうに食べている姿を見て、じゃがいも+りかこ → じゃがりかこ → 「じゃがりこ」という商品名になったんです。
あまり知られていないのですが、実はじゃがりこの商品ごとに描かれているキリンたちは、家族関係があったりもするんですよ。
発売当時からの楽しいユニークさがコアのブランド価値となって、ファンの方にも伝わって親しんでいただいているのかなと思いますね。
── 社内のじゃがりこチームも「楽しい」雰囲気なんでしょうか?
谷澤:じゃがりこのチームに来ると、みんなダジャレを思いつくスピードが上がっていくんですよ。上司からは、「『じゃがりこ』は楽しい商品なんだから、担当者も楽しくないと!難しい顔して考えるな!」とよく言われます(笑)。食事や会議の時も、ふとダジャレを言いあうような、そんな愉快な雰囲気のチームです。
14年続いた「じゃがり校」の閉校とX(旧Twitter)での新たな共創
── 2007年からはファンコミュニティサイトの「それいけ!じゃがり校」が立ち上がりました。開校のきっかけを教えてもらえますか?
谷澤:一人ひとりのファンのみなさんにお手紙を書いてきた文化を踏まえて、今度はインターネットを通じて、より多くの方々とコミュニケーションを取ることができないかと考えたのがきっかけでした。
2007年はまだ日本にiPhoneが上陸しておらず、FacebookやX(旧Twitter)のようなSNSも普及していなかった時代でしたが、当時のブランドマネージャーが時代の波を感じて新しいことに取り組みました。
「じゃがり“校”」という名の通り、学校形式のルールが特徴的でした。誰もが“入学”できるわけでなく、サイト上では毎年12月~翌2月に「入試」が実施され、合格すると晴れて4月に“生徒”になれるんです。在籍期間は、リアルな中学校や高校と同じ3年間。毎年2000~3000名ものファンが受験してくださいました。
じゃがりこに携わる社員が先生や学校職員となって、自然に“生徒”と交流でき、クラスメートであるファン同士が自然にコミュニケーションを取っていましたね。
──「じゃがり校」では具体的にどんな活動をしていましたか?
谷澤:ほぼ毎日ブログ形式で商品情報やじゃがりこ担当社員の仕事の様子を発信する「朝礼」や、商品企画や新味開発の道のりが知れる「社会科見学」など、楽しく学べるコンテンツを用意していました。
また開校10年を祝い「リアルじゃがり校 登校日」イベントを開催して、都内の学校を借り、“生徒”の中から選ばれた35名を対象に、数種類のじゃがりこを試食して感想をいただいたり、ワークショップでじゃがりこを使ったモザイクアートを制作したりもしました。
そして最大の学校行事は、なんと言ってもファンと共創する年1回の「新商品開発プロジェクト」ですね。毎年じゃがり校の生徒のみなさんと、「味」「パッケージ」「バーコード」「キャッチフレーズ」などを、1年かけて商品づくりを体験いただく内容です。
生徒等からフレーバー案を1000案以上投稿してもらい、そこから絞られた味案の試作品を生徒たちに試食していただきながら改良を進め、約1年かけて商品を完成させます。
これまでいろんな味が生まれている背景には、じゃがりこの商品開発ならではの特徴があります。じゃがりこは、じゃがいもを蒸してマッシュポテトを作り、味を練り込んでスティック状に成形してフライにします。中に味がつけられるので、複雑な味を再現しやすくなるんです。
注目してほしいのは、ほぼ毎月新しい味を発売している「じゃがりこ」の中で、「じゃがり校」でコアファンと共創した商品が年間トップの売り上げを記録することが多いということです。
ファンとの共同開発から、「こんな味も出るのか!」と、私たちの想像を超えるものが生まれていく過程はとても面白いですね。
── 長年ファンに愛された「じゃがり校」が2021年3月末に閉校になりましたが、背景はなんだったのでしょうか?
谷澤:じゃがり校は、入試に合格した熱量の高いファンと濃密なコミュニケーションができるという面がある一方で、限られた人しか参加できないという側面もありました。一方SNS上には、X(旧Twitter)を中心として、おつまみにじゃがりこを食べたという投稿や、折れ曲がって不思議な形をしたじゃがりこの画像、じゃがりこをタワー状に積み上げた画像などの話題(UGC:User Generated Content)が、月に3万件ほど発生している環境があったんです。
私たちカルビーが主体となって用意したコンテンツでなくても、お客さまがじゃがりこをある意味「勝手に」楽しんでいる。SNSでたくさん生まれているファン発信のコンテンツを丁寧に拾い返していく方が、より多くのファンとつながれる。不特定多数のファンの方から生まれるじゃがりこの新たな価値を、一緒に育てていくようなコミュニケーションのほうが、今の時代に合っているのでは?と考え、コミュニケーションのベースをSNSに置くことにしたんです。
閉校にあたり「残念」というお声もいただきましたが、閉校の1年前にアナウンスをさせていただき、最後は歴代の校長先生や教職員が、当時と変わらぬ熱量で、じゃがり校生への感謝をお伝えしたり、育児休暇中の教職員は近況の報告を交えてまた別の機会での再会を願ったりと、約1ヵ月間のリレー形式でメッセージをお届けしました。
コミュニケーションの場所は変われど、継承していく熱量高いコミュニティ
── コミュニケーションの場所をSNSに変えてからの反応はどうでしたか?
谷澤:じゃがり校を終えて、X(旧Twitter)をベースにファンと交流して行く上でも、人気コンテンツだった「新商品開発」は続けていきたいと思っていました。
どうしたら実現できるかを考えたところ、投稿や投票により商品を創り上げていくファン参加型の『#みんなで創るじゃがりこ2021プロジェクト』に行きつきました。
参加方法は、「じゃがりこ」公式X(旧Twitter)アカウントをフォロー、ハッシュタグ「#みんなで創るじゃがりこ2021」をつけて、新商品のアイデア(味、パッケージ、バーコードのデザイン、ダジャレ・キャッチコピー)を投稿するというもの。投稿されたアイデアの中から厳選した4案まで絞り、最後に最も良いと思う案一つに投票していただきました。
また、パッケージデザインにおいては、普段からじゃがりこのデザインを担当いただいているデザイナーの方に意見をいただいたり、出てきたアイデアを実際にデザインに起こしていただくなど、社内でも関係各所と連携をして進めました。
── SNSでのファン参加型の「新商品開発」は今回初めての取り組みですし、どのようなところが大変でしたか?
谷澤:お客さまからのアイデア収集や投票で決めてもらうステップを細かく入れたため、かなりタイトなスケジュールにならざるを得なかったところです。
通常よりも短い納期での工程を関係者にお願いする中で、企画の意義や、なぜこのようなやり方をするのかについてを事前に説明し、納得・共感してもらいながら、協働してプロジェクトを進める空気を作れるように工夫しました。
初の試みでどこまで上手くいくか未知ではありましたが、味の投稿は、約1万2,000件の応募がありました。じゃがり校の時が数千件だったので、約4倍以上。圧倒的に増えましたね。投稿されたアイデア全てを確認しましたが、本当に捨てがたいアイデアが多かったので、絞るのが難しかったです。開発チームと連携しながら、出てきたアイデアに対して「この味は再現できるか?」「じゃがりことして美味しくなりそうか?」など議論を重ね、最終4案に絞っていきました。
── 1万2000件の投稿……! 期待していたより広くオープンなコミュニケーションが叶ったんですね。
谷澤:商品企画の「楽しさ」を感じてもらえるような工夫は、じゃがり校以上に意識しましたね。アイデアを出すことにハードルが高いと感じるファンにも参加してもらいやすいように、アイデアの投票の他に、最終絞った4択の中から最終決戦投票をしてもらうようにしたり。
パッケージやバーコードのデザインの投稿については、デザインのクオリティが高くないといけないのではと萎縮してしまう人もいるかもしれないと思ったので、お子さんが落書きで書いたようなものでも大丈夫ということを補足的に発信していきました。
── 選ばれなかった方への配慮で工夫されたことはありますか?
選ばれなかった方には、個別で御礼を伝えることはできませんでしたが、多数のアイデア投稿や投票をいただいたことに感謝をお伝えする投稿を行いました。
最終的に完成したじゃがりこに、アイデアが反映されるのは限られた方になりますが、アイデアを考えたり、気軽に投稿いただくことで、じゃがりこを身近に感じていただける体験になれればと考えています。
── コミュニケーションの場所を変えて初めて取り組んだ新商品開発でしたが、今後改善していきたいことはありますか?
谷澤:じゃがり校の時のような深い関わりを持つことでしょうか。X(旧Twitter)での投稿は字数制限があり、そのアイデアを選んだ理由を聞くのが難しかったように思います。例えば、味噌バターコーン味の投稿でも、「札幌のラーメン屋さんで食べた、あの味噌バターコーン味が忘れられなくて」というような理由まで聞けるようになると、味づくりにも反映していくことができます。他には、商品開発の醍醐味でもあると思うので、試食会ができたらいいなと。ただ、このご時世なので、試作品ができた時点で行う試食会をライブ中継で行うとか。改善の余地はまだまだありますね。
ファンと一緒にユーモアで創る「じゃがりこ」ブランド
── じゃがりこチームがファンとコミュニケーションを取るうえで大事にしていることは何ですか?
谷澤:ファンと一緒に楽しむことです。コミュニケーションを取るうえで、「こうしなければいけない」というような明文化されているものはありません。ファンが「じゃがりこ」の面白さを見つけて、自発的に広めていく中で、ブランドが作られているんだと日々感じています。
── 大切にしている価値を一緒に面白がる仲間のようです。ファンのみなさんが作ったコンテンツは、どんなものがあるのでしょうか?
谷澤:例えば、シチュエーションに合わせて、「じゃがりこ」と感情を込めて言うゲーム「演技力じゃがりこ面接」がファン発で生まれ、多くの「やってみた」動画がアップされたり、じゃがりこを使ったアレンジレシピがSNSでバズったり。
他にも、じゃがりこのカップに、あるアイスカップの蓋がぴったりはまるというファン発の投稿が拡散されたこともありましたが、そんな発想があるとは驚きましたね。商標や肖像権、他社のブランディングに問題がないかを考慮しつつ、そのような面白さを発掘し、ファンに楽しさを広げる役割もあると思っています。
そうすることで、「じゃがりこ」のことを気軽に呟いたり、絡みにいけるんだと感じてもらえますし、よりじゃがりこを話題にしたいと思ってもらえたらうれしいなと思います。
── ファンによってじゃがりこへの面白がり方が違うのがユニークですね。じゃがりこチームにとって、ファンとの共創とは何ですか?
谷澤:じゃがりこブランドの「楽しさ」を一緒に作っていくことです。単なるお菓子ではなく、おもちゃに近いような楽しみや面白さを提供し続けるブランドでありたいと思います。
新商品開発のプロジェクトについては、どなたでも参加できるようになったので、毎年恒例の関心ごととして広がり、「今年も新しいじゃがりこを作る時期が来た!」と、一緒に楽しんでもらえたらいいなと思います。
今後もファンのみなさんと一緒に、より楽しく面白い「じゃがりこ」を作っていきたいと思います。
今回の事例のポイント
- チーム会議は、ダジャレが飛び交うほどの楽しいムードで
- 毎年恒例の「新商品開発」を誰もが参加できるようX(旧Twitter)で展開
- ファンが創ったユニークなコンテンツを発見し、一緒に広げて面白がる
1995年の誕生以来、「じゃがりこ」が多くの人に親しまれてきた背景には、ファンと一緒に商品・ブランドを「面白がる」文化が、DNAとして受け継がれていることにありました。
ファンを大切にするコミュニティ運営の在り方はそれぞれですが、大切にしている価値をファンと共有し、その価値を一緒に変化・成長させ、未来の価値を共創し続けていることに、長年愛される秘訣があるのかもしれません。
(撮影:原 哲也)
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