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スタートアップの熱狂をチューニングし、成長を支援するパブリシティの専門家として―フリーランスパブリシスト・田山慶子

転職と独立。その選択肢を前にしたとき何を基準に決断するかは、PRパーソンとしてのキャリアを大きく変えるでしょう。

株式会社エウレカで恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs(ペアーズ)」の広報責任者を務めるなど、2012年から数々の企業で広報PRを経験してきた田山慶子さんは、2019年に独立しました。2020年現在はパブリシストとして複数のスタートアップ企業やベンチャーキャピタル(VC)でPRパートナーを務めています。

転職ではなく独立を選んだ理由、『PR』の中でも『パブリシティ』を自身の軸に据えた理由。それらを紐解くために、田山さんのキャリアと今後の展望を伺いました。

パブリシスト

田山 慶子(Keiko Tayama)

津田塾大学卒業後、専門商社にて営業に従事。2012年7月、インフォバーンに入社。Webコンテンツ制作の企画・編集を経て、広報の立ち上げに携わる。その後、複数のITベンチャーにて、SNSマーケティングや広報を経験。2016年6月、エウレカに広報責任者として入社。国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス『Pairs』の広報活動を通して、オンラインデーティングサービスがもたらす社会的意義の啓蒙に従事。2019年4月、独立し複数のスタートアップにて広報支援を開始。同年9月より、W venturesのPRパートナーとしても活動中。

広報PRの筋力を鍛えた20代、そして独立

ー 田山さんは2020年現在広報PRのプロとして独立していらっしゃいますが、初めて広報を経験したのはいつでしたか?

田山さん(以下、敬称略):2012年からインフォバーンでWebコンテンツの編集に携わっており、「会社の情報を編集してみない?」とCEOの今田素子さんに声をかけていただいたのが始まりです。後日名刺に入っている肩書きを見て、その仕事が広報なのだと知りました。BtoBの事業広報を経験したことでもっと広報活動を極めたいと思い、今度はBtoCの広報担当者になれる企業を探しました。

ー 以降、いくつかの企業で広報担当者をご経験されていますね。

田山:20代のときは焦りがあって、キャリア選択で試行錯誤していた時代でもあります。“キャリアの踊り場”という言葉がありますよね。事業成長の進捗状況やスピード感によっては、いつのまにか自分が停滞してしまうんじゃないかと恐れていました。

ターニングポイントとなったのは2016年、エウレカの共同創業者である赤坂優さん、西川順さんとの出会いと同社への入社です。2015年、M&AによりNASDAQ上場企業の米国Match Groupにジョインしたエウレカは、当時ITスタートアップやマッチングサービス業界内では“イケている”企業でした。でもそれは、あくまで界隈での評価です。

そもそも恋愛・婚活マッチングサービスはいわゆる“出会い系”サービスと混同されがちで、日本ではネガティブな印象を持つ人が少なからずいました。広報担当者として、私はマッチングサービスというビジネスカテゴリそのものの啓蒙とともに、そのなかでも『Pairs』が国内最大級であり安心・安全で健全なサービスであることを世間に伝えていく役割を担いました。誰から見ても魅力的なプロダクトではなく、PRが難しいプロダクトだからこそ広報担当者の腕が試されますよね。PRパーソンとしての”筋力”をつける貴重なチャンスでした。

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当時マッチングサービスは広告だけでなくパブリシティにすら一部規制が入っていました。『Pairs』が真剣な恋愛やその先の結婚に向き合う独身男女が利用する健全なサービスだと伝えるべく、元ユーザーのカップル・夫婦に実名と写真付きでのメディア取材に協力いただいたり、『Pairs婚』という言葉を意識的に使ったり、カスタマーサクセスの体制・仕組みを紹介したりと、ターゲット層のみならずその親族や職場の関係者にも安心・安全というイメージを想起いただくためのアプローチを多面的に試みました。この経験は、広報PRの“ゼロイチ”が楽しいと知るきっかけや、自分の強みを知るヒントになったと感じています。

3年間の試行錯誤を経て、『Pairs』の安心・安全性に対する認知は徐々に広まり、広報面ではパブリシティ規制を乗り越えるだけでなく、広告規制の見直しの交渉へ繋げることもできました。媒体から取材依頼をいただけるようにもなり、広報PRは組織戦へ移行……ここで一区切り。そう思い、独立しました。

ー 転職ではなく独立。その理由は?

田山:実は学生時代から漠然と自分で何らかの事業をやりたいと考えていました。けれど、当時の私には何も武器がなかった。だからまずは専門性を身につけようと、20代のキャリアを重ねました。広報を続けてきた理由は、まだまともな実績も役職もない20代の女性であっても、違和感なく経営者のそばで企業の未来に関する情報に触れられ、その意思決定プロセスや社外の人脈に接することが自然にできてしまうというのもあって……。

会社員という働き方があまり向いていないのも新卒で就職してすぐに自覚していたんです。独立を決めたときはおっかなびっくりでしたが、赤坂さんと西川さんの応援もあり、自分に合った働き方を選びました。

インハウスマインドで挑む、フリーランスの広報PR術

ー フリーランスになってみて、心境の変化はありましたか?

田山:想像していたほど変わりません。というのも、私は会社員時代からフリーランスマインドで働いていたところがあって。給与がどうのとかあまり興味がなく……その時点での額面や労働時間などの数字は参考程度に捉えていて、とにかく事業成長に繋がる圧倒的な成果の創出とその再現性の検証を念頭にがむしゃらに働いていましたからね。

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変わったところといえば、完璧主義じゃなくなったところでしょうか。会社員だったころは資料作成もプロセスも120%完璧な状態にしようとしていました。でも、フリーランスになってからはその理想を一旦捨てたんです。実は取引先が望んでいるのはそこではなく、スピード感を持って要所をつかんで最大限の成果を生むことなんだな、と

ー 組織でなく「個」だからこそ、取引先との関係性で気をつけていることはありますか?

逆にインハウス時代のマインドを活かしています。起業家や経営メンバーの方々は身内である自分たちの社員にだからこそ見せられる泥くさい素のままの部分ってあるじゃないですか。方向性の変更や一見無茶そうなオーダーも一緒に考えていくパートナーであろうと意識しています。

具体的には、インハウスのようなスピード感で、こまめなやりとりを心がけています。それから「その施策は現段階では効果が見込みづらく、こういう選択肢を検討すると良いと思います」、「今のクリエイティブではターゲットに届かないので、例えばこの要素を加えませんか」といった広報視点での客観的な意見もはっきり伝えますね。

ー フリーランスとインハウス、広報担当者としてどんなところに違いを感じますか?

田山:インハウスとフリーランスの大きなちがいの一つは、評価制度の有無とそのサイクルです。インハウスの場合、ある程度整備された評価制度があり、年に1〜2回の面談を通してスムーズに成長できる地盤が整っています。

独立すると、たしかにそういった評価制度の対象からは外れてしまいます。しかし、スタンス次第ではさまざまな企業の経営メンバーから評価してもらうことは可能ですし、頻度も2〜3ヶ月に1度など広報活動の状況に合わせて年に複数回実施できます。私の場合は、その環境のほうが適しているようです。経営状況に合わせて、企業から求められている価値を広報として把握・実現していくのと同時に、自分の適切な市場価値を見定められるよう、可能な限りまめにフィードバックをいただくようにしています。特に厳しいフィードバックは糧になりますね。

ー ご自身の経験を踏まえ、どのような人だとフリーランスの広報PRに向いていると思いますか?

インハウスとフリーランス、どちらが正しいということはありません。社内にいたほうが目標にコミットできるタイプの方もいると思います。

それをふまえたうえで、自分の将来をイメージできるかどうかはひとつの判断基準になると思います。イメージできることは実現できる。なので恐れずにまずは小さく挑戦してみることが大切。逆に、イメージできないことはだいたい実現しにくいので、無理に取り組まない方向へ思考を切り替える。これは私が広報活動をする中でもひとつの基準になっています。

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「パブリシスト」としてPRパーソンの在り方を再定義し、企業成長を支援する

ー 田山さんは現在『パブリシスト』という肩書きを使っていらっしゃいますね。その理由を教えてください。

田山:これまで多岐にわたる広報活動に携わってきて、私はパブリシティに特化したプロフェッショナルを目指そうと思うようになりました。領域が広い「PRパーソン」の中で、パブリシティを軸に置くことを肩書きで伝えたかったんです

私は幼いころから活字を書いたり読んだりするのが好きでした。出身地が田舎だったこともあり、世の中の新情報に飢えていた時代があって。本屋で雑誌を読みあさっていたあの頃から、パブリシティの力を感じながら育ってきました。

事業成長に合わせて、フリーパブリシティとペイドパブリシティ双方を使い分けられるのが理想的だというアドバイスをいただいて取り組んだ時期もありますが、私が特にコミットしたいと強く願ってきたのはフリーパブリシティの部分です。自分自身のバックボーンや強みを考えたとき、フリーパブリシティの専門性を深めていく道が拓けました。

国内ではまだあまり浸透していませんが、パブリシストという職業は欧米では珍しくありません。企業だけでなく、著名人を担当するパブリシストも存在します。情報の伝え方によって事業や個人の印象をコントロールするプロですね。私がやりたいことがまさにそれなので、そう名乗るのが適切だな、と。

ー あえて専門性で絞ることは、PRパーソンの働き方にどのような影響を与えるでしょうか?

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広報活動と一口に言っても、その領域は多岐にわたります。バックグラウンドや経験した業務内容によっては、業界に生きづらさを感じるPRパーソンは少なくないでしょう。本来であれば、自分の強みを活かした広報活動にそれぞれが関わるほうが適切だと思います。企業の成長フェーズによって求められる広報活動は異なりますし。

そうしたニーズや市場環境に応じ、今後は狭義な領域に専門性を持つPRパーソンが流動的に関わっていくような働き方が浸透していったらいいなとイメージしています。「パブリシスト」として自分が活動していくことがその一端になれば、とも感じています。

ー パブリシストとしての活動方針や今後の目標を教えてください。

私は現在、カテゴリを問わず、幅広い領域でスタートアップの広報PRに注力しています。一方で、シードやアーリーステージのスタートアップの場合、タイミングの見極めや資金面での事情などから、適切な広報活動の実現が難しいという課題も見えてきました。そこで、2019年9月からはW Venturesと連携し、PRパートナーとしてその投資先を支援しています。今後は事業成長フェーズに合わせた最適な広報活動を体系化して、より深くスタートアップのエコシステムを理解し、その持続的な成長に貢献していきたいですね。社会的意義のある事業を粘り強く育てているスタートアップのみなさん一人ひとりのモチベーションアップと評価にも何らかの形で繋がるよう、パブシティの積み重ねを通して日々応援していけたらと考えています。

いずれはエンジェル投資家的なポジションでスタートアップと共に夢を追いたいという目標もあります。独立してから、スタートアップの成長を支えている専門家との出会いが増え、『投資』という支援の在り方に興味を抱くようになりました。自分自身のリソースに限りがあるという点で、現在も広報活動に関する知見や時間を投資している感覚が強くあるですが、起業家のみなさまからの要望に最適な形で応える選択肢を増やすべく、パブリシストとしてのビジネスモデルを新たに築いていくことも検討しています。PRパーソンであると同時に、エンジェル投資家でもあるという働き方ですね。

ー では、田山さんにとって、広報PRとは?

田山:私にとって広報PRとは、社会と企業間のチューニングです。スタートアップの多くは、自分たちが生み出した事業やプロダクトに熱狂しています。そのこと自体は素晴らしいのですが、”界隈”を離れて街中やお茶の間などへ冷静に目を向けてみると、実際その事業と価値を知る人はとても少ないことも。この社会と企業の温度差を地道に埋めていくのが、パブリシストの務めだと思っています。世の中の人々に知られていなければ、どんなに優れたプロダクトも存在しないのとほぼ同じですから。

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パブリシティが事業を育て、社会を変えていく

広報としての筋力を、さまざまな企業で鍛えあげてきた田山さん。インハウスで経験を積んできた彼女だからこそ、熱い想いを共有できるPRパートナーとして、現在も複数企業のパブリシティを支えています。
そしてストイックに高みを目指してきたキャリアの先にあったのは、スタートアップ企業と共に歩むパブリシストとしての独立です。広報活動の意義や自身の強みの交点を探り、投資家的な立場でスタートアップ企業を支援するパブリシティの専門家として田山さんは歩み始めました。企業の一次情報を世に広める立場から一人ひとりの人生に価値をもたらす事業を育てる田山さんの生き方は、PRパーソンとしての導(しるべ)となるでしょう。

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この記事のライター

宿木 雪樹

宿木 雪樹

ライター・編集者。カンパニーストーリーやプロダクトのユーザーボイスのインタビュー記事を中心に、企業オウンドメディアにて編集・執筆。ほか、マーケティングに関わるコラム連載も執筆中。好きなものはハーブティー。30代になって健康な生活に目覚めました。

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