時代や社会の変化とともに、どんどん注目度が高まっている「リベラルアーツ」。生きていくために必要とされる学びであるリベラルアーツという言葉が持つ意味や内容はどのようなものかご存じでしょうか。言葉は聞いたことがあるという方も、詳しい内容までは知らないという方もいるかもしれません。
近年は日本でも、早稲田大学、国際基督教大学、上智大学、立命館大学など、さまざまな大学の授業で取り入れられています。リベラルアーツは、言葉通りの「教養教育」という意味だけではなく、生きるための力が身に付く学びです。
今回は、グローバル社会に対応できる人材育成や組織をマネジメントしていくために大切なスキル、リベラルアーツについてご紹介していきます。
リベラルアーツとは?意味や意義について解説
リベラルアーツは、生きるための力を身に付けるための手法であり、「こうあるべき」という概念から解放され、自由に生きるための手段を学ぶ学問です。日本語に直訳すると「教養教育」ですが、欧米諸国のリベラルアーツの意味からすると日本語の直訳が適しているとはいえません。
リベラルアーツは、グローバル社会に対応する人材育成に必要不可欠な教育であり、考える引き出しを増やして、人生を豊かにすることへの学びでもあります。日本でも、大学などの教育機関や人材育成や企業研修の場などで取り入れられ始めています。また、企業や組織を運営するリーダーや、マネジメントする管理職などに求められる考え方や要素のひとつです。
リベラルアーツ=教養、は誤り?
日本語に直訳すると「教養教育」という意味のリベラルアーツですが、明確な定義はありません。しかし、「教養を広げること」や「幅広い知識の習得」という意味とは少し異なります。
教養教育とリベラルアーツとの違いも簡単にご紹介します。教養教育はスキルではなく、社会に出て働いていくために必要な知識や情報の獲得で、リベラルアーツは、明確な答えがない問題や課題を解決していくための知識やスキルを習得する学問のことです。
これまでの日本の大学での「教養教育」は、「専門教育」を学ぶ前に学習するものと捉えられており、そのような学習スタイルが取り入れられてきました。しかし現代では、時代の変化とともに、課題解決型の実践的な学習スタイルである、リベラルアーツ教育を取り入れる大学が増えてきているのです。
リベラルアーツの歴史
最近生まれた学習方法や考え方のように思われるリベラルアーツですが、その歴史はとても古く、古代ギリシャまでさかのぼります。原型は、古代ギリシャのプラトン(紀元前427~347)が推奨した「数学的諸学科の自由な学習」で、人間を束縛から解放する知識、自由に生きるためのスキルといわれています。
また、起源は古代ギリシャ・ローマ時代の「自由七科(じゆうしちか)」からきています。「自由七科」とは、基礎的な学芸として重視されている「文法学」「論理学」「修辞学」の3学と、「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」から成る4科に分かれている学問科目です。
リベラルアーツは、古代ローマから中世ヨーロッパの大学の基本科目へ、そしてその後アメリカに伝わってから、日本に伝来したという流れがあります。
日本におけるリベラルアーツ・リベラルアーツ教育
古代ギリシャ・ローマ時代が起源のリベラルアーツが、なぜ日本の教育でも取り入れられるようになってきたのでしょうか。日本におけるリベラルアーツはどのような教育で、どんな学習スタイルなのかをお伝えしていきます。
これまでの日本の教育では、「なぜ? どうして?」という部分が欠如していることが多く、日本人にとって、リベラルアーツの教育はあまりなじみのないものでした。しかし現在では、早稲田大学、国際基督教大学、上智大学、立命館大学をはじめ、さまざまな大学の授業でリベラルアーツ教育が取り入れられています。授業の内容は大学ごとにさまざまですが、その背景として、現代社会を生きていくために必要な知識や学びが変化してきていることが考えられます。
また近年では、企業のリーダーや組織をマネジメントする管理職にもリベラルアーツが求められつつあります。求められている理由としては、社会のグローバル化やIT化が進み、多様な人材の管理が必要であることや、人口の減少に伴い、人が行う仕事の内容が変化してきていることが関係しているといえます。
どんどん複雑化していく社会の中では、いろいろな問題や課題を解決していく機会も増えていくでしょう。その課題を解決するには、どれだけ高度な専門領域の知識を持っていても難しい場合があります。物事を多角的に捉えて、さまざまな方向から柔軟に考えられる思考が必要です。そのような考え方やものの見方を鍛えていくためにも、日本でリベラルアーツ教育が注目されているのではないでしょうか。
リベラルアーツで学ぶ内容
問題や課題解決に必要な力を養うことがリベラルアーツの目的のため、学ぶべきことは現代社会のすべてが対象となります。明確な答えのない問いに対応していくためには、物事の本質や事実などの正確な情報を学んだあとに、自分なりの基準を持つというステップを踏むことが大切です。
リベラルアーツは、知識や情報を得るだけでなくスキルを習得する教育です。必要なときに活用できる知識ではなく、その知識をどう活用するか、課題解決のためにどのように生かせるかということを学んでいきます。その学びを鍛えていくことで、新しいものの見方や、柔軟な思考が広がり、自分なりの基準を持つことにつながっていきます。
そしてその学びから、自分自身の中にある固定観念に気が付き、その観念をアップデートさせるための発想や能力が身に付いていくのです。
社会人が独学でリベラルアーツを学ぶ3つの方法
続いて、社会人が働きながら独学でリベラルアーツを学ぶ方法を3つご紹介していきます。記事を読んで、リベラルアーツの考え方や教育方法に興味が生まれてきた方は、ぜひ参考にしてみてください。最近ではリベラルアーツ教育を導入している大学の社会人向けの講座や、オンラインで学べる講座なども増えてきています。
1.専門知識軸を持つ
先ほどもお伝えした通り、リベラルアーツ教育では、まず正確な情報を学ぶことが大切です。正確な情報とは、物事の本質や事実、現象や状態、経過や成り立ちなどのことです。その情報の精度が高ければ高いほど、そのものの本質が見えてきます。
そして、「歴史」や「文学」、「経済学」や「政治学」などの専門知識を学ぶことで、自分で考えていくための基準や軸が身に付いていきます。物事を判断するときに、「なんとなく」という曖昧な軸でなく、正確な情報を学んで身に付いた専門知識が役に立ちます。
専門知識軸を持つことで、論理立った根拠を導き出すことができ、的確なイメージや設計図を描くことができます。複雑な課題や明確な答えのない問いに対応していくためにも、専門知識軸を持つことはとても大切なことです。
何から取り組んだらよいかわからないという方は、自分の興味がある領域や詳しい分野の専門知識を高めていきましょう。ひとつの分野を深く掘り下げることが第一歩です。興味のある分野の専門書を読んだり、講座や学校に通ったりして、精度の高い専門知識をストックしていきましょう。
また、自分の興味があるコミュニティやイベントに参加して知識や情報などを深めることも有効です。同じことに興味のあるコミュニティの中でも、さまざまな価値観やものの見方を持つ人たちがいるため、新たな情報を得ることができたり、新たな気付きを得たりすることにつながります。
2.専門外の知識軸を持つ
リベラルアーツは、知識ではなくスキルを習得する学問です。そのスキルや判断の根拠を高めていくためには、専門知識軸だけでなく専門外知識軸も学んでいくことが大切です。
専門知識だけで「問題ない」と判断できたことも、専門外の知識を学ぶことで、視点の幅や角度により広がりが出ます。AのみでOKだったことも、BやCの観点で見ると「問題ない」とは言い切れなくなることもあるのです。その逆で、AでOKだったことを、BやCの観点でも見ることによって、さらにその判断や根拠が確かであることを導き出すヒントになります。
具体的な行動としては、これまで参加していたところと別のコミュニティに参加したり、話を聞いたりすることから始めてみましょう。会社内で他部署との関わりをつくり、コミュニケーションの幅を広げることも専門外の知識につながるヒントになります。また、興味はあったけれど深掘りしたことがなかった領域を学んでみることも、専門外の知識を広げるための有効な行動です。
専門知識軸を備えつつ、専門外の知識軸を持つことで、考え方や物事の捉え方、見方が柔軟になり、より視野の広いアイデアや課題解決方法が生まれるでしょう。
3.教養軸を持つ
学生時代に学んできた、社会に出て働くための基本的な教養にプラスして、思考の根本につながる教養軸を持つことも大切です。特定領域の専門知識があることだけが社会で役に立つわけではありません。物事を多角的に見て判断できるようになるためには、幅広い教養を身に付けることも重要です。
教養軸を持つということは、自分なりの考え方や判断軸を構築していくために必要なことです。教養を取り入れて蓄積していくことで、自分自身の中でのものの見方、善し悪しが生まれ、何かを判断したり取捨選択する際の判断軸がつくられていきます。
すぐに取り組める具体的な行動としては、今の自分自身のことを知ることも第一歩。質問に答えて自分の強みを知ることができる「クリフトンストレングス・テスト(ストレングスファインダー)」などの才能診断を試してみるのもおすすめです。自分の潜在能力を知り、どの分野を生かして、どの分野を学んでいけばいいのかなどの自己理解を深めていきましょう。
参考:クリフトンストレングス・テストの活用方法を学ぶ | JA – ギャラップ
リベラルアーツを学ぶのにおすすめの本・書籍
リベラルアーツを学ぶための本や書籍はたくさん出版されています。教育や学びの概念であるリベラルアーツをどのように捉えるか、さまざまな思考や思想があります。今回は3冊ご紹介しますが、さまざまな角度のリベラルアーツに関する本や書籍があるので、複数読んでみることもおすすめです。自分にフィットする考え方を見つけてみてはいかがでしょうか。
1.自由になるための技術 リベラルアーツ
山口 周(著)
独立研究家・山口周氏のExecutive Foresight Onlineでの連載に大幅加筆、書き下ろしを加えて構成されたもの。山口氏と、哲学・歴史・美術・宗教など各界のさまざまな知の達人たちとの対談を軸にまとめています。現代社会において、リベラルアーツを学ぶ意味が浮かび上がってくる一冊です。
2.大人になるためのリベラルアーツ
石井洋二郎、藤垣裕子(著)
異なる価値観を持つ他者との対話から、本当の「大人」になるための思考を鍛えていく一冊。「コピペは不正か」「代理母出産は許されるか」「絶対に人を殺してはいけないか」など、さまざまなテーマの主要目次が並んでいます。学生と教師の「生の声」が飛び交う、大学の授業から生まれた本です。続編である『続・大人になるためのリベラルアーツ』も発売されています。
3.池上彰の教養のススメ東京工業大学リベラルアーツセンター篇
池上 彰(著)
テレビなどでも活躍中のジャーナリストで東京工業大学リベラルアーツセンター教授である池上彰氏が書いた本です。教養がどれだけ役に立ち、一生使える知の道具であるかを感じられる一冊。池上氏と東京工業大学の教授たちとの対話を通じ、「いかに教養が社会の課題解決に役立っているか」という内容を臨場感たっぷりに味わえます。
『池上彰の教養のススメ / 東京工業大学リベラルアーツセンター篇 』日経BP
ビジネスパーソンに必要なリベラルアーツを身に付けよう
今回ご紹介した学問のリベラルアーツは、どんどん変化していく現代社会において、会社を率いるリーダーや組織をマネジメントする管理職を中心に求められつつある要素のひとつです。
原型は古代ギリシャで生まれた自由に生きていくためのリベラルアーツ。現在、日本の大学でリベラルアーツ教育を導入しているところが増えてきている背景には、生きていくために必要な学びが変化してきていることがあるのではないでしょうか。グローバル化やIT化が広がる現代社会では、さまざまな問題や課題に柔軟に対応していく能力が必要です。
社会人になってもさまざまな形でリベラルアーツを学ぶ方法はあります。社会人になると日々の生活や仕事に追われることが多いかもしれませんが、上記でご紹介した内容を参考にリベラルアーツを学び、身に付けてみてはいかがでしょうか。
リベラルアーツに関するQ&A
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