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コーポレートブランディングとは?目的・効果・ステップ・事例などを紹介

コーポレートブランディングは、短期間で行う製品ブランディングとは異なり、企業としてのブランド価値を中長期的に伝えていく取り組みです。期間が長く規模も大きいため、何から始めたらいいか悩むことも多いでしょう。

本記事では、コーポレートブランディングとは何かという基本の部分から、効果やステップ、具体的な施策などを事例とあわせて紹介します。

コーポレートブランディングとは?

とは?

コーポレートブランディングとは、コーポレート(企業)のブランド価値を向上させるための活動のこと。個別の製品ブランドではなくコーポレートブランドを強化することで、顧客からの信頼をもとに、新規参入する市場への優位性や、事業間のシナジーなどさまざまな好影響が期待できます。

たとえばヤマハの例を考えてみましょう。ヤマハはモーターバイクからピアノまで幅広い、かつかけ離れた事業を展開していますが、どの事業も「ヤマハ=高い技術力」というコーポレートブランドに対する信頼に支えられています。

また、ソニーは音楽、映画、ゲーム、金融など多彩な事業を展開しています。マスターブランド戦略と呼ばれるこうした方針は、「ソニー」という確立されたコーポレートブランドを活用し、新事業への投資効率を高める効果をもたらします。

主力事業が変わっていく中で、かつての「〇〇の企業」という認知を変え、浸透させていくのもコーポレートブランディングです。パイオニア株式会社では、カーエレクトロニクス事業が主力事業となっている中、「音響機器メーカー」のパイオニアという枕詞を変え、浸透させるためのブランディングを図っています。

母体となるブランド(マスターブランド)に翳りが生まれると傘下の事業の売上や利益に大きな影響が出るというリスクはありますが、ブランドの重要な要素である「明確さ」「シナジー効果」「レバレッジ効果」を強化するのがコーポレートブランディングなのです。

企業がコーポレートブランディングを行う目的・効果

コーポレートブランディングを行うことで、企業にとって3つのメリットが期待できます。

それぞれ詳しく説明します。

1.事業や製品の競争力強化

1つ目は、事業や製品の競争力強化です。

コーポレートブランディングを行うことによって、顧客が製品・サービスの利用を比較検討する際に、企業の持つ力や文化、独自性を顧客に想起させることができ、ほかの製品群との差別化につながります。

また、新規事業や新製品においても、これまでのブランド構築活動による知名度や信頼といった資産を引き継げるため、プロモーションやパッケージなどにかける広告宣伝費を削減することができます。

コーポレートブランディングは、製品の価値を高め、市場シェアを拡大することに貢献するのです。

2.従業員のコミットメント向上

2つ目は、従業員のコミットメント向上です。

コーポレートブランディングを行うことによって、企業のアイデンティティが従業員にも強く意識されるようになります。その結果、自社のミッションや価値観、組織文化についても理解されやすくなり、企業への信頼感や共感が深まると考えられます。

コーポレートブランディングにより、従業員の帰属意識を高め、優秀な人材の流出を防ぐ効果が期待できるのです。

3.ステークホルダーからの信頼獲得

3つ目は、ステークホルダーからの信頼獲得です。

コーポレートブランドを強化することで、企業の知名度や世間からの信頼が高まり、求職者や取引先、投資家などのステークホルダーを惹きつけられるようになります。

特にこの点では、「モノ」である製品・サービスのブランドを強化するより、「人間」「組織」である企業のほうが信頼を築きやすいという性質も効果を発揮するでしょう。

コーポレートブランディングを進める7つのステップ

コーポレートブランディングは全社を巻き込んだ大きなプロジェクトです。

順序を守って適切なステップで進めることを意識しましょう。

STEP1.企業に変革が訪れるタイミングを捉え、ブランディングの必要性を周知する

まず、企業に変化が訪れるタイミングを捉え、コーポレートブランディングの必要性を社内で広く理解してもらう必要があります。

ブランディングには企業全体の改革を伴います。社内で広く必要性が実感されなければ、現状維持を望むなどの意見の対立を越えてブランディングが実現することはありません。

周年記念のタイミング、M&Aのタイミング、企業ブランドイメージと実態(主力事業など)の乖離が大きくなったタイミングなどが好機です。

コーポレートブランディングはすべての従業員が実践者になるため、早い段階で全員を巻き込んでおく必要があります。同時に経営陣にも必要性を感じてもらい、トップダウンで素早い動きを行えるようにしておきましょう。経営合宿や、外部講師を招いてのセミナーなどが有効な施策です。

また、この段階でブランディングを進めるおおよそのスケジュールや目指す状態をある程度決めておくようにしましょう。

STEP2.ブランディングを推進する組織を設ける

続いて、ブランディングを推進する組織を設けます。

コーポレートブランディングは企業の今後を左右する重要なプロジェクトであるため、推進組織の責任者は経営陣のひとりであることが望ましいでしょう。

初期の段階では、素早い動きができるよう10人以下の少人数をコアメンバーとして進め、施策を実行する段階で、各部署から選抜された中堅の従業員に活動の中核を担ってもらい、施策を広く浸透させていきます。

STEP3.トップの意志と顧客のニーズを把握する

次に、トップの意志と顧客のニーズを把握できるよう動いていきます。

ブランディングの成功を左右するのはトップの意志です。経営者だけでなく、創業者やオーナーなどの企業の歴史や文化に関する想いを理解したうえで、企業としてどのような姿を目指していきたいかを確認する必要があります。

同時に顧客の意向を調査し、企業の目指すべきブランドについてインサイトを発見しましょう。顧客のニーズを無視してブランディングは成立しません。

STEP4.ブランドの差別化された中核価値を言語化する

トップの意志と顧客のニーズをもとに、ブランドの中核価値を言語化しましょう。

ブランディングにおけるもっとも重要な要素は「差別化」です。競合ブランドとは明確に異なる、独自のポジションを定めます。

ほかと違う存在であることを鮮明にするうえでは、ブランドの仮想の人格(ブランドパーソナリティ)を設定できると有効です。

差別化できるポジションやパーソナリティを踏まえ、ブランドとしてありたい姿(ブランドアイデンティティ)を言葉にし認識をすり合わせます。

STEP5.ブランドの目指す姿を表現する手法を定める

ブランドアイデンティティが決まったら、それを表現する手法について定めていきます。

インターネット上や店頭など、さまざまなタッチポイントにおいてブランドらしさを感じてもらえる表現を行う必要があります。常にブランドとしての一貫性を保つためのガイドラインを策定しましょう。

ブランドらしい言葉遣いや文章表現(バーバルアイデンティティ)、ブランドらしい視覚表現(ビジュアルアイデンティティ)を具体的に決め、ガイドラインとして整備していきます。

STEP6.社内外へ一貫したコミュニケーション施策を行う

ここまでのステップが無事に完了して初めて、社内外へ向けたコミュニケーション施策を実行していきます。

企業が行うすべての活動がブランドに影響を与えるため、一貫した姿勢を常に保つことを心がけましょう。

企業活動の実態とブランドアイデンティティに乖離がないかを随時見直し、是正していくと同時に、ブランドアイデンティティを積極的に社外へ発信するコミュニケーション施策を行います。

STEP7.効果測定を行い、STEP1から改善を繰り返す

コーポレートブランディングは、一度きりの活動で終わることはありません。ブランド価値を高めるために、絶えず測定を行い、フィードバックし、改善するというサイクルを繰り返していきます。

ブランディングの効果測定を行う際は、無形資産としての財務分析に加え、

  • 理解度(概念が明瞭であり、社内外に理解されているか)
  • 共感度(顧客がブランドアイデンティティを体験できているか/経営層や従業員の行動にブランドアイデンティティが反映されているか)
  • 継続性(ブランド戦略を効果的・効率的に実行するための仕組みや体制が確立しているか)

の観点でチェックできるとよいでしょう。

広報がコーポレートブランディングを行うときの具体的な5つの施策

コーポレートブランディングイメージ

コーポレートブランディングにはいくつかの具体的な施策が考えられます。ロゴ変更などがよく行われますが、ほかにもさまざまな施策があります。

ここからは、コーポレートブランディングを行うときの具体的な施策の例を5つ紹介します。

1.社名変更、ロゴ変更

社名変更は、企業が目指す姿と実態の乖離が非常に大きい場合に効果的な施策です。

一方で、企業としてこれまで築いてきたブランドイメージを手放すことになるため、既存顧客や従業員にネガティブな印象を与える可能性もあることは覚悟する必要があります。

社名変更を行うほどではないが、これまでの企業イメージを打ち破りたいという場合はロゴ変更が有効です。

これまでのロゴにどのような想いが込められていたかを読み解き、新たなロゴにもきちんと歴史を引き継ぐストーリーを持たせるようにしましょう。

2.ミッション、バリューなど行動指針の策定と普及活動

従業員の行動すべてがブランド構築活動となるため、従業員にブランドアイデンティティを浸透させることは非常に重要です。

ミッション」や「バリュー」として従業員の行動指針を策定し、従業員の行動にも一貫性を持たせましょう。

普及活動としては、社員総会の開催、社内報の発行、クレドカードの制作などの施策が考えられます。

3.人事制度や組織体制、福利厚生の刷新

対外的な部分だけでなく、組織の内部にもブランドアイデンティティが浸透して初めて強いブランドとなります。自社らしい、自社ならではの人事制度・組織体制・福利厚生が実現できれば、従業員のエンゲージメント向上や採用力の強化などのよい影響が期待できます。

社内の制度や仕組みは外からは見えにくい部分です。ブランディング効果を最大化するためには、オウンドメディアやプレスリリースなどの手段を活用し、積極的な情報発信を行いましょう。

4.製品デザインやWebサイトのリニューアル

製品のデザインやサービスサイト・コーポレートサイトなど、ステークホルダーとの重要なタッチポイントにおいて、企業としての視覚表現や言語表現を統一できるようにアップデートします。

ブランドらしい言葉遣いや見せ方のガイドラインを遵守し、一貫したブランド体験を提供することが重要です。

5.メディアを通じた社内外への発信

コーポレートブランドの普及活動には、メディアを通じた社内外への発信が欠かせません。

テレビCMや新聞広告などのペイドメディアや、ブログなどのオウンドメディアを通じ、企業自らの言葉でブランドアイデンティティを発信しましょう

同時に、プレスリリース配信やメディアアプローチを行い、記者の客観的な視点で企業としての新たな姿勢を報じてもらえると信頼や期待が高まります。

参考にしたいコーポレートブランディング事例3選

実際にコーポレートブランディングに取り組む際は、ほかの企業の事例が参考になります。ここからは、効果的なコーポレートブランディングを行っている企業の事例を3つ紹介します。

事例1.LIFULL

株式会社LIFULLは、2017年4月に株式会社ネクストから社名変更を実施。社名変更に際しては、新社名を全社員から募ったといいます。

さらにブランドパーパスを設定後、生活者に届きやすいコンセプトとして「しなきゃ、なんてない。」というメッセージを策定。

「しなきゃ、なんてない。」にまつわるエピソードを届けるオウンドメディア『LIFULL STORIES』を開設、「しなきゃ、なんてない。」を体現する著名人を表彰するアワードを開催するなど、強いコーポレートブランドをつくるマスターブランド戦略を推進してきました。

約5年にわたるコーポレートブランディングが評価された結果、企業のブランディング活動を表彰するアワード「Japan Branding Awards2021」にて最高賞であるBest of the Bestを受賞しています。

事例2.SmartHR

2021年にユニコーン企業の仲間入りを果たした株式会社SmartHR。サービスが順調に成長を続ける中で、ブランディングに関するさまざまな施策を実施してきました。

サービスの成長に集中した立ち上げ期、戦略的に動き始めた創業5〜7年目を経て、創業8〜9年目でコーポレートブランディングを意識するように。

「BtoBtoE」をテーマにしてすべてのコミュニケーションを考えることで、機能的価値が差別化しづらい中、情緒的価値を消費者に感じてもらいやすくしています。

テレビCMでも、「SmartHRを導入したことによって得られる企業・団体全体への便益や、気持ちよさ」といった部分を主軸に据え、機能面は紹介しないなど、その姿勢を徹底しているのが特徴です。

事例3.側島製罐

缶を製造する愛知県の老舗企業、側島製罐株式会社。2000年(年商およそ15億円)から売り上げが落ちはじめ、2020年には5億円を割り込むなど、苦しい状況が続いていました。

そんな状況下で6代目が後を継ぎ、「世界にcanを」をミッション、「宝物を託される人になろう」をビジョンとして新たに策定。

従来は1缶100円程度が相場だった中、「子供の想い出を大事にしまう」をコンセプトとした新商品を1缶3,000円で売り出しました。商品のデザインやストーリー性も含めてブランド価値を向上させた結果、2021年は20年ぶりに売り上げが上昇に転じたといいます。

コーポレートブランディングに取り組み、企業を強くしよう

企業のブランド価値を向上させるコーポレートブランディング。

個別の製品ブランドではなくコーポレートブランドを強化することで、顧客からの信頼をもとに、新規参入する市場への優位性や、事業間のシナジーなどさまざまな好影響が期待できます。

中長期的で大規模な取り組みになるためハードルが高いと感じる方もいるかもしれませんが、一つひとつのステップや施策を積み重ねていく中でブランドへの信頼が醸成されていきます。

紹介した7つのステップや具体的な施策、他社の事例などを参考にコーポレートブランディングに取り組み、より社会から信頼される企業になるよう導いていきましょう。

参考文献:『コーポレートブランドと製品ブランド 経営学としてのブランディング』(簗瀬允紀)
『ブランディング 7つの原則【改訂版】 成長企業の世界標準ノウハウ』(インターブランドジャパン)

<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>

コーポレートブランディングに関するQ&A

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この記事のライター

佐藤 杏樹

佐藤 杏樹

フリーのライター・編集者。PR TIMESに新卒入社しメディア事業部にてコンテンツ編集者・SNS運用・イベントなど担当。現在も執筆業に携わりながら広報・PRの仕事もしています。広報実務を通して得た知見や実践しやすい広報ノウハウ、最初に知っておきたい広報の基礎など、みなさまに分かりやすくお伝えします。

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