PR TIMES MAGAZINE|広報PRのナレッジを発信するWebメディア
記事検索
title

マーケティングの観点をプレスリリースに。マーケティング×広報の連携で効果を最大化|高梨杏奈

「広報」と「マーケティング」。仕事内容はもちろん、役割や目指す目的も大きく異なります。本記事では、マーケティング視点を活用した広報術をご紹介。

丸紅アークログ株式会社で広報とマーケティングを兼務される高梨杏奈氏に執筆していただきました。複業で多くの企業の広報サポートを手がける一方、日本マーケティング学会マーケティング/PRテクノロジー研究会メンバー及びPR部会委員でもある高梨氏ならではの、「広報」と「マーケティング」を連携する際のポイントをお届けします。

丸紅アークログ株式会社 マーケティング・広報担当

高梨杏奈(Takanashi Anna )

明治学院大学卒。販売・事務・購買職を経験後、2016年よりベンチャー企業にて広報職をメインにキャリアを積む。2021年6月に楯の川酒造株式会社へ広報担当として参画後、デジタルマーケティングを兼務。2023年3月より丸紅アークログ株式会社にて広報とマーケティングを兼務。プライベートでは2児の子を持つワーママ。複業で他企業の広報サポートも行っている。日本マーケティング学会マーケティング/PRテクノロジー研究会メンバー及びPR部会委員。

昨今の広報とマーケティング

広報とマーケティング。私自身も前職・現職とそれぞれ兼務で業務を担当しておりました。スタートアップや中小企業では兼務されていて少人数で職務に当たるというケースは少なくないと思います。そのため社内では少数派というところで、それぞれの価値や目的を混同されて語られがちな職務でもあります。とはいえ、それぞれの職務は似ているようで異なる性質を持っており、「情報を発信する」という面では同じ手段を利用していますが、目的や役割は大きく異なるということはPR TIMES MAGAZINEをご覧になっている方はよく存じ上げている情報かと思います。

そのため、詳細情報は割愛致しますが、端的にお伝えするとマーケティングは、情報発信という手段を活用して顧客にとって有益な製品やサービスを提供し、顧客が製品やサービスを購入するように促し最終的に「商品を買ってもらう」ことを目指す活動です。一方で広報とは、情報発信という手段を活用して各ステークホルダーと相互にコミュニケーションを行い、社会(パブリック)との良好な関係を築くことで、社会から長期的な理解と信頼を獲得することです。

(参照:PRTIMES MAGAZINE 広報とマーケティングの違いは?

そんな広報とマーケティングですが、昨年・今年と広報とマーケティングの定義が刷新され、業界内では大きな話題となっています。

  • 広報の定義

組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。

日本広報学会
  • マーケティングの定義

(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである

日本マーケティング協会 2024年

注1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注3)構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

日本マーケティング協会

価値観の多様化・顧客の求めるものも変容、そして多様なチャネル・ツール・場・相手に対するコミュニケーションが必要となる今、ボーダーレスな世界の進展も相まり、広報・マーケティングそれぞれの価値はまさに変革期となっています。

広報とマーケティングは、目的や役割は異なるものの「情報発信」という手段を用いて価値を訴求していく職種です。どんどん変わるチャネルや価値観に対応していく必要があり、今後さらに密接に連携が必要になるのではないでしょうか。そこで、今回は広報が担当する情報発信の手段のひとつであるプレスリリースにおいて、マーケティングと連携した視点を取り入れることによる可能性についてお話ししたいと思います。

プレスリリースにマーケティングの視点を活かすには

広報担当が日々活用する情報発信ツールであるプレスリリース。そのプレスリリースにマーケティングの視点を取り入れることは、マーケティングと連携するうえでのひとつの手段であり、はじめの一歩として実施しやすいのではないでしょうか。プレスリリースにマーケティングの視点を取り入れるためのポイントや注意点を3つ挙げてみたいと思います。

1.マーケティングなど「顧客に購入を促す部門」と連携する

当たり前といえば当たり前ではありますが、この部分はとても大切なプロセスです。リリースまでに時間がなく、担当者から上がってくる情報を書面に落とし、なんとなく回覧し事実情報を確認してもらってそのまま配信という場面もあるかと思います。回覧の中にはマーケティングや営業が「この言葉を使ってほしい!」「こう書いてほしい!」という指摘が入ってくることも多いでしょう。その際に、広報的にはこの書き方ちょっと難しいよね、と思うことも多々あるのではないかと思います。

先ほどお話しした通り、広報は長期的な価値の形成を目指し、ステークホルダーと継続的なコミュニケーションを通じた信頼関係の構築、さらに社会との良好な関係の構築を目指します。一方で、マーケティングは、ステークホルダーとのコミュニケーションは同じであるものの、顧客のニーズに応えて価値を提供し、最終的には顧客の行動変容を促して売上・利益を増やすことにあります。

特に、商品やサービスのプレスリリースにおいては、実際に顧客に購入してもらうためのコミュニケーションに強みを持つマーケティング部門との価値観のすり合わせは必要不可欠です。マーケティング部門だけでなく、できれば営業担当やEC部門といった実際に顧客にコミュニケーションを取る部門とのコミュニケーションをしっかり行い、狙う顧客の行動変容や自社が生み出せる価値提供の確認・すり合わせし、プレスリリース作成時に意識して入れ込むことができると良いのではないかと考えています。

狙う顧客の行動変容や自社が生み出せる価値提供の確認は、例えば以下のようなことです。

  • 自社として伝えたいこと(ここに広報とマーケティングとセールス部門で認識齟齬がないか)
  • 今どのユーザーや企業を注力しているのか
  • 広報活動においてどういったユーザーに、どう伝わってほしいか
  • マーケティングはプレスリリースからどう行動変容してほしいのか

普段から行っているよという方もいらっしゃるかと思いますが、こういった根底の確認はとても重要です。

そのうえで、マーケティング部門と情報発信と行動変容のゴールを明確にし、逆算して文面を組み立てていけると良いと思います。例えば、過大表記など広報としてこの書き方はできないものはあるかもしれませんが、実際に顧客の声やデータを耳にしたり分析したりしている方々が感じる視点を意識することで、プレスリリースから先に見てもらうステークホルダーへ伝えやすくなる言葉を取り入れることもできるのではないかと思います。

さらに、マーケティングがどう行動変容を目指しているかという点でいくと、マーケティング施策との連携も重要です。SNSキャンペーンや各種広告と連動することで、広告でアプローチしていくステークホルダーと広報でアプローチしていくステークホルダーを組み合わせて露出計画を作れるとより効果的なプレスリリース配信になると考えます。

2.記事化されやすいポイントを作る

マーケティング部門・セールス部門のそれぞれの価値観や情報をすり合わせ、その方々の意見だけを取り入れたプレスリリースを配信するということはおすすめしません。非常にもったいないからです。自社がステークホルダーに対してこう見せたい・こう伝えたいという方向性や担当者の思いをしっかりと受け止めた中で、広報というひとつのフィルターを通して掲載されやすいポイントを生み出していくことをおすすめします。

釈迦に説法なお話ですがプレスリリースでは、それを見た第三者であるメディアにどう書いてもらえるかを意識しましょう。記者に興味を持ってもらうポイントや書かれやすいポイントというと、ほかにもさまざまな記事でも言及されているかと思いますので、今回は「マーケティング視点を活かして書かれやすいポイントを作る」という点にしぼってお話ししようと思います。

では、まずプレスリリースというそのものの価値・そしてマーケティング視点を持つうえで必要不可欠な認知〜購買までの一般的な購買モデルについて触れていきます。

プレスリリースは大前提として、企業や組織が発表する公式文書であり、一次情報としてメディア関係者向けに発信し、メディアという第三者から記事掲載いただくことで、認知拡大・信頼関係に貢献するものです。

公式文書であることから、事実を正確に伝える必要があります。つまり「こうなりたい!」という思いだけではもちろん記事にはできません。したがって、前述でヒアリングした内容を広報が精査し、正しい数値や世論・事象を考慮した内容を組み立てていく必要があるのです。

続いて、一般的な購買モデルについて触れておきます。PRプランナー試験の内容でも触れられているのでご存知の方も多いかと思いますが、AISASとAIDMAは、消費者の購買行動プロセスを説明する代表的モデルです。

AIDMA

  1. 情報を見て、商品を知る(Attention)
  2. 商品を知った消費者が興味・関心を持つ(Interest)
  3. 感情的に商品が欲しくなる(Desire)
  4. 商品やブランド名を記憶する(Memory)
  5. 行動・購買する(Action)

AISAS

  1. 情報を見て、商品を知る(Attention)
  2. 商品を知った消費者が興味・関心を持つ(Interest)
  3. 商品やブランドを検索する(Search)
  4. 行動・購買する(Action)
  5. 購買した後に共有する(Share)
概念図
寄稿者 高梨杏奈氏作成「AISAS・AIDMA 消費者の購買行動プロセス」

では、広報がプレスリリースを行う際は、この購買プロセスの中のどこに貢献できるでしょうか。

1.情報を見て、商品を知る」というフェーズは、プレスリリースを配信し情報を見てもらいたいステークホルダーにしっかり届けば確実に貢献できます。そしてプレスリリースの内容に興味を持ってもらえれば「2.商品を知った消費者が興味・関心を持つ」というフェーズまで到達できるでしょう。

その後AISASモデルでいうと、「3.商品やブランドを検索する」というフェーズになります。ターゲットとなるステークホルダーが検索した際にプレスリリースやプレスリリースを基として掲載されたWeb上の記事の情報が表示され、詳細を閲覧することができる状態になっていれば、このフェーズにおいてもプレスリリースの効果が期待できます。ターゲットが検索したときに付加価値のある情報を自社で出すだけでなく、第三者が書いた記事を読むことにより、より理解が深まり興味・関心を持ってもらえる可能性も高まります。だからこそプレスリリースの中に、メディアに興味を持ってもらうポイントや記事に書かれやすいポイントを組み込むことで、ひとつのプレスリリースの価値をより高めることにつながるのです。

では具体的にどういったポイントを書くべきなのでしょうか。おすすめしたいのは客観的なデータを的確に利用することです。ここでいう客観的なデータというのは、以下のような情報を指します。

客観的なデータ(例)
市場の状況、世論、省庁の出す白書
第三者の出した調査レポート
自社で行なった調査レポート、自社の販売数や直近の実績、累計契約数など

このような具体的な数字は、プレスリリースで配信する製品やサービスの社会的ニーズの裏付けやそのニュースを取り上げる必要性を客観的に表現することができ、第三者に対して端的に表すことができます。

省庁などの公的な資料から抜粋したり、第三者機関のマーケティング部門で取っている数字も活用したりできますが、現状何もなければ自社で調査するというのもひとつの手です。参考までに、私自身も前職において客観的な数値がなかったことからデータを作ることから始め、調査リリースとして展開しました。調査リリースを通じて業界内外で話題性を作っただけでなく、その市場調査で得た客観データを生かして別のリリースにも活用し、記事化のひとつのフックにもなりました。

参考:業界全体へのインパクトがメディアやSNSで話題に。楯の川酒造の調査リリースに学ぶ広報起点の自社調査

社会的ニーズを踏まえ、自社が押したいポイントを上手に組み込んで発信することで、より効果的な情報発信につながるのではないでしょうか。

3.長期的な価値や信頼性の構築・維持を意識する

もちろん、プレスリリース1本で多くの拡散・行動変容に至ることもありますが、ステークホルダーへ認知され興味・関心を持ってもらい、検索してもらうといった行動変容を、プレスリリースを1本出すだけでは到達できないことが多いと思います。

1本出しただけであきらめるのではなくプレスリリースを蓄積していくことが大事です。違った商品であってもそれぞれのプレスリリースに一貫した会社のメッセージを載せていくことで、記者や第三者へのイメージ醸成につながります。記者の方に先の記事だけだと情報としては弱い、もしくは時期が合わずストックされていて、次のリリースで関連する情報がプラスされたら記事化できると考えてもらえる可能性もあります。また、「〇〇といえばこの会社」というように自社が狙っている印象を持ってもらえるようになれば、自社が狙う文脈での記事化にもつながる可能性が高まります。

広報は、一長一短で成果が出るものではありません。長期的にさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取り、市場の受け止められた状況を社内へ戻したり、発信方法を変更したりして、再度コミュニケーションを取っていくなどの試行錯誤は不可欠です。プレスリリースも試行錯誤しながら流れを作り、変容を促していけるとよいのではないでしょうか。

マーケティングと広報が連携して認知拡大〜行動変容のリーチ最大化を

似て非なる、マーケティングと広報。上手に連携していくことで、認知拡大~行動変容へのリーチを最大化させ、社会への大きなムーブを作ることもできるかと思います。

最初の一歩として、まずはプレスリリースからマーケティング視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法料金プランをあわせてご確認ください。

PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする