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中小企業こそ戦略的なプレスリリース配信を。メディア掲載につながる4つのポイント・参考にしたい施策・事例を紹介|平田貴子

多くの企業が日々商品・サービスなどの情報を発信する中、中小企業のプレスリリース配信には何が必要なのでしょうか。本記事では、中小企業のプレスリリースが情報の渦に飲み込まれずにメディア掲載につながるポイントをご紹介。

多岐に渡る業界のPRを手掛けた実績を持ち、松浦産業株式会社(香川県)のPRコンサルタントとして「プレスリリースアワード 2021」パブリック賞を受賞した、株式会社PRorderの平田貴子氏に執筆していただいています。

株式会社PRorder 代表取締役

平田貴子(hirata takako)

医療分野で広報経験後、フランチャイズ事業の本部で経営支援・マーケティング部門などを経て、広報立ち上げを行い、ブランド戦略・新規事業などに携わる。2018年に総合PR会社に入社し、PRコンサルタント・メディアプランナーとして上場企業から地方中小企業まで、多岐に渡る業界を支援。2022年に株式会社PRorderを設立。香川県の取っ手メーカーのリリースでPR TIMES主催の「プレスリリースアワード2021」パブリック賞受賞。株式会社PR TIMES公認「プレスリリースエバンジェリスト」。

中小企業こそ戦略的なプレスリリース配信が必要

プレスリリースは、全ての企業団体が持っている「発信する権利」です。事業をドライブさせるために、どんどん使っていきたいところです。

デジタル時代となり、配信プラットフォームのおかげでプレスリリースの「民主化」が加速しています。2023年にPR TIMESから配信されたプレスリリースはなんと月間3万4000件超、累計で100万件にものぼるとのこと。

以前はプレスリリースを配信するのは大企業が多く、地方企業などはプレスリリースを配信するだけで記者の目に留まることもありました。しかし、先行者利益を享受できる時代はとうに終わったのです。

大企業ほど知名度がない中小企業のプレスリリースは情報の渦に飲み込まれがち。発信する情報を戦略的に検討する必要があります。

今回は、中小企業がプレスリリースを配信する際に気をつけたいポイントを事例とともにご紹介します。

中小企業がメディア掲載されるためのプレスリリース作成4つの戦略的ポイント

「プレスリリースはなんのために配信するんですか」と聞かれたら、「記事にしてもらうため」と私は回答しています。

もちろん、もっと大きくいうと「認知獲得や意識変容のため」です。

その目的を効率的に実現するために、自社と自社の情報を伝えたい人をつなぐ“ハブの役割”をしているメディアの力を借りるために、プレスリリースを書きます。メディアは常日頃から有益な情報を探しており、その分、当たり前ですが日々大量の情報に接しています。そんな記者の目に留めてもらうためには、戦略的に考えられたプレスリリースであることが必要です。

ここでは中小企業の発信担当者(経営層や広報など)が意識したい、プレスリリース作成時の4つのポイントをご紹介します。

ポイント1.自社のオリジナリティを意識する

プレスリリースを出すだけでメディアに取り上げられるのはほんの一部の大企業だけです。

では、大量の情報の中から自社をメディアにピックアップしてもらうには何が必要なのか。それは“オリジナリティ”です。「そんなことか」と思った方もいらっしゃるでしょう。ただ、この点を意識できていないプレスリリースは多いものです。

新商品や新サービスのお知らせの場合、類似の商品やサービスとの違いはどこか・何が新しいのか、わかるように書いていますか。

例えば、調査リリース。

アンケート結果を客観的なファクトとして活用し、自社のサービス・商品の有用性やニーズの高さなどを示す情報発信の手法です。近年ネット調査が簡単にできるようになったこともあり、調査リリースを配信する企業が増加しています。

調査対象そのものに世の中の興味関心が高く、時流を示すような内容で、しっかりと統計学的に設計されている場合は、調査内容だけでニュース価値が高くなるケースももちろんあります。ただその一方で、社名を変えればどこの企業でも発信できるような調査リリースも存在します。

オリジナリティのある情報にまとめるには、他社が真似できない自社の強みは何か、自社にしか発信できないことは何か、「自社が発信する理由」を突き詰めて考えることが必要です。競合類似調査のリサーチや比較を行い、自社だからこそ輝けるポイントを探しましょう。

ポイント2.ニッチは最高!中小企業だからこそのメリットを活用する

大企業と中小企業の違いのひとつが、「狭い市場をターゲットにしている」という点だと思います。資本力や規模感が優位になる大きな市場ではなく、大企業が関与しにくい狭い市場で存在感を発揮している中小企業はたくさんあります。

ある特定の市場の中で、同業他社や生活者、取引先などを長年見てきたからこそ感じられる潮流、景色があると私は考えています。中小企業ならではの「世の中を測るメジャー」「世の中を見るメガネ」を持っていることは、情報を発信するうえでとても有利です。

ニッチだからこそ、あなたの会社にしか伝えることができない情報があるはずです。

プレスリリースは伝えたい情報の風呂敷を広げすぎず、特定のメディアや生活者をターゲットにし、簡潔に情報を伝えることが鉄則です。この点、中小企業はターゲットを明確に絞りやすく、また、“自社だから伝えられる”というオリジナリティも付加価値にすることが可能です。

そういう意味では新商品やサービスだけでなく、これまで積み上げてきた売上データやユーザー情報の推移も立派なネタになります。特定の市場におけるデータは非常に貴重なもの。自社が持っているすべてのアセット(資産)を活かしきる気持ちで、ぜひ情報の棚卸しをしてみてください。

そして、ある企業(の情報やデータ)から見える世界は、いつもと違った視点・切り口で世の中を捉えることができるため、メディアにとってインパクトがある情報になるはずです。

また、中小企業がこのようなニッチな情報を伝えていく際は、地元メディアや業界専門媒体とのリレーションが大事です。広報活動を限られた人的リソースで行わなければならない場合は、「深く・長く」メディアとリレーション形成することを意識しましょう。

今はWebメディアの勢いが増していますので、地方紙や専門媒体(一次メディア)の記事がネット記事となり、Yahoo!ニュースなどの二次メディアに取り上げられることも多いです。誰もが知っているようなテレビ番組で報道されたいと思う経営者や広報の方は多いですが、そもそも、テレビ関連者もネットでネタ探しをしてます。それゆえ、地元媒体・専門媒体のひとつの記事が、多くの方に自社を知ってもらうきっかけになった企業がたくさんあるということを忘れないでください。

ポイント3.汎用性のあるテーマに仕上げる

ポイント2と逆行するように感じるかもしれませんが、自社ならではのニッチな情報を発信するときこそ、世の中の流れや傾向もリンクさせて情報発信することが必要です。さじ加減、バランス感覚が大事です。

オリジナリティあふれるプレスリリースはメディアにとっておもしろい情報にはなりますが、それを記事や報道として取り扱うかどうかは、また別の話です。そのため、このプレスリリースの情報を取り上げた理由をしっかりいえるような“大義名分”を作ったり、“世の中ゴト化”したりと、情報を加工・追加して発信することが広報担当者には求められます。

具体的には、新聞記者さんが記事を社内で提出したときに「なぜこの記事を書くのか?」とデスク(上司的なポジションで、提出された原稿内容をチェックする立場の方)に問われ、スムーズに回答できるかどうか、ということです。記事を通す、主な理由となるものは以下です。

▽適時性(なぜ、今なのか)
まさに今記事にすべき理由を、以下などにつなげてつくります。
‐〇〇の日、暑さや寒さなどの天気、花粉、新生活といったタイムリーさ
‐出生時育児休業制度(産後パパ育休)、働き方改革関連法(2024年問題)といった国や政府、社会の動きがあるタイミング

▽メディアニーズ(気にしているテーマ)
リリースの目的は記事にしてもらうことなので、どんな情報が多く扱われているのかを調べて、「メディアが求めている情報」と自社が発信する情報をリンクさせましょう。
‐新規性:新情報、新市場
‐期待感:今後トレンドや時流になりそうなもの
‐市場横断:一社、単体だけでない動きを示すもの(〇〇続々・〇ヵ月待ち、ハッシュタグ数・ネット検索数など)
‐注目ワード:ビジネス関連だと、DXや働き方改革などは長期のトレンドですが、人手不足・人的資本・原料高騰など。その他、タイパ(タイムパフォーマンス)、生活者(世の中)で話題になっているワード。

これらの「メディアニーズ」と自社のニッチな情報を組み合わせることで、生活者が“自分ごと”として捉えられやすく、メディアも記事にしたときのイメージが湧きやすくなります。

また、汎用性があるテーマにすることで、一社単独ではメディアに取り上げられにくい中小企業でも、複数社での横並び事例として掲載実績を積むことができる可能性があります。情報番組で「行列」ができる店を紹介するのも、こんなサービスや商品が「続々」と紹介されるのも、多くの方が注目していること、一社だけではない動きでトレンド感を示すためです。

「競合と横並びでの掲載は避けたい」と考えられる方もいますが、まずは小さくてもメディア掲載の実績を積み上げることが大事です。また、競合と一緒の掲載であっても、自社の市場が盛り上がり生活者の注目が集まるのは喜ばしいことですよね。

考え方として、具体例があったほうがわかりやすいと思うので…

あなたは酒類製造メーカーの広報担当です。今度発売される「低アルコールの新商品」のプレスリリースをつくることになったと想像してみてください。

  • 度数が8%以上のいわゆるストロング系缶酎ハイのトレンドがあり市場が盛り上がっていたこと
  • コロナあたりから、飲めるけどあえて飲まないといった「ソバーキュリアス」という考え方が浸透してきていること
  • 世界保健機関(WHO)のアルコールと健康リスクの発表、厚生労働省「飲酒ガイドライン」公表(2024年2月)などの動き
  • 各社ノンアルや微アルコールに注力している状況
  • 海外からの観光客復活で日本と世界の飲酒慣習や考え方の違いなどがSNSでたまに話題に

こういうさまざまな「背景」があったからこそ、おそらく新商品開発をしたはずです。

その流れを示し、なおかつ、自社の新商品は他と何が違うのか、それをプレスリリースで発信するという感じです。

もしそんなプレスリリースを受け取ったら、アルコール業界の潮流と、それを示す新商品事例として、記事にしてみたいと思ってくれる記者さんは少し増えるかもしれません。

ポイント4.苦しい現状も隠さず伝える

いつの時代も、より良い商品やサービスを生み出そうと素晴らしい努力をされている企業は、たくさんの苦労を積み重ねています。そして、この苦しさや失敗などの経験から得たストーリーこそ、メディアはとても知りたい情報なのです。

いま、原料価格高騰や深刻な人手不足などで苦しんでいる企業はたくさんあります。しかし、苦しい現状自体も、伝えなければ世の中に一切知られることはないのです。どれだけ大変な思いをしていても、創意工夫でその困難を乗り越えていたとしても、「発信なきものは無」なのです。

こういう試行錯誤や苦難のプロセスを、多くの企業はあまり発信していません。「恥ずかしくて言いたくない」「そこまで言う必要はない」「悪いイメージを持たれてしまうのは避けたい」そんな心配があるのは当然のことだと思いますが、いつだって、人の心を動かすのは『ストーリー』です。真剣に事業に向き合っているからこそ起きた失敗や苦労、そこから得た学びは、業界や立場を超えて誰もが共感し今後に活かせることがたくさんあります。だからこそ、そういう情報をメディアは探しているのです。

しかし、大企業は多くのしがらみや関係者の調整でこのような話題を発信しにくいのも事実。

一方で、中小企業は意思決定者が限られているため制限も少なく、比較的タイムリーに発信することができます。

自社のネガティブ情報をあえて発信するのは、最初は抵抗があるかもしれません。でも、これだってオリジナリティです。正々堂々と現状や苦労していること、創意工夫で困難を乗り越えたこともプレスリリースに加えて、発信してみてください。

このようなストーリーを感じるプレスリリースは、パートナー企業や取引先・社員家族のロイヤリティを高めたり、採用活動の際に企業のスタンスや事業への向き合い方を示したりと、自社に関わるさまざまなステークホルダー(関係者)にもかならず響くはずです。

配信して終わらないプレスリリース配信後の徹底活用

関連各所と調整して、やっと配信できた『企業の公式文書』であるプレスリリース。

企業情報や商品・サービスが簡潔にまとまったタイムリーな資料なので、PR TIMESなどのプラットフォームや自社のメディアリストにメール配信して終わり、ではもったいないです。

プレスリリースは報道向けの資料としてだけではなく、営業先や関わるパートナー企業への自社活動の紹介、銀行の融資や補助金申請の補足資料、採用者や社員、家族への自社活動の発信など、あらゆるシーンで有効なコミュニケーションツールとなります。

▽プレスリリース活用方法

  • 記事や取材獲得のためのメディアへの案内資料
  • 営業先や関わるパートナー企業への自社活動の紹介
  • 銀行の融資や補助金申請などの補足資料
  • 採用者や社員、家族への自社活動の発信

【期待できる効果】

  • 資金調達(銀行の注目、信頼度)
  • 販路開拓、売上貢献(指名買い、問い合わせ)
  • 社内活性、モチベーションアップ(人材確保や採用)
  • ブランド力(認知度や信用度で他社との差別化に)
  • 地域や取引先の評価アップ
  • 協業やコラボ、新規事業が促進

また、プレスリリースから記事や報道の機会を獲得すると、新規の問い合わせなどといった営業的メリットもありますが、「社員交流の活性化」といったインナーブランディングの効果も得られます。

なぜなら、プレスリリース配信前の段階で組織チームを越えて意見交換をしたり、データ検証や情報整理をしたりする機会が増えることで、おのずと社員同士の交流が活発になります。

商品開発の際の想いやサービス設計の苦労などを知ってもらえる喜びを知ることで、普段から「外に何か発信できないか」という視点を社員それぞれが持つようになります。

プレスリリースを起点にした発信活動が、社内のモチベーション向上につながる、いい循環。

広報活動はすぐに効果が得られるものではなく、じわりじわりと効いてくる漢方薬のようなものです。

地道ではありますが、「発信を継続すること」がもっとも大事なことです。

参考になる中小企業のプレスリリース・広報戦略事例

前述の4つのポイントを取り入れ、戦略的にプレスリリースを配信している事例をご紹介します。どのように実践に活かしたら良いのか、ぜひ事例をもとにイメージを膨らませてください。

事例.松浦産業株式会社「レコードみたいなレコード巻」

松浦産業株式会社「レコードみたいなレコード巻」プレスリリース

参考:『レコードの日』に発売!原料高騰に苦しむ地方メーカーの努力と発想から誕生 これがテープ!?「レコードみたいなレコード巻」

紙袋用取っ手の国内トップメーカーである松浦産業株式会社。2022年に配信したプレスリリースでは、前述した4つの戦略的ポイントを押さえてつくられています。

オリジナリティとニッチな視点

ニッチトップメーカーである松浦産業ですが、業界で品質の画一化が進む中、「楽しさ」を付加価値にすることで自社ならではの情報を発信しています

それは商品の形状や名前にも表現されており、広報と商品企画が部署の垣根を超えて協力することで“松浦産業らしさ”を追求しています。

アグレッシブに商品開発に取り組んだり、スピーディーに判断ができたりすることが中小企業の強みですよね。

汎用的なテーマと苦しい現状

ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安という生活者にも身近なテーマを引き合いに、原材料費がかつての1.7倍になってしまったことを“非常に厳しい現状”と伝えています

それに伴う原料見直しという商品が生まれた背景がネガティブであっても、タイムリーに包み隠さず伝えることで、時流に乗りつつ自社ならではの情報に仕上がっています。

また、記念日である「レコードの日」に合わせて商品を発売するなど、適時性を考慮した発売日に向けて商品開発〜情報発信までの流れをつくっている点もポイントです。

ニッチを戦略的な武器に昇華させよう

事例で紹介した「このプレスリリースを配信して、結局どうだったか」という点が皆さま一番気になっていることだと思います。

結果として、このプレスリリースは多くのWeb媒体や専門媒体で記事となり、商品のおもしろさや、中小メーカーのコスト増への対策などさまざまな切り口で取り上げられました。また、NHK高松放送局の夕帯のニュース番組で、8分くらいの時間、松浦産業の工場から生放送で紹介。冒頭、レコードプレーヤーを模したターンテーブルにテープがおかれ回っている、といった面白い演出を取っ掛かりにして、その後は取り組んでいる事業や各種商品など一連が報道されました。

“おもしろさ”といったフックは、とても大事な要素だと実感します。まずは何らか興味を持ってもらえば、『本当に伝えたいこと』が言える「時間」と「機会」がもらえるのです。

中小企業の情報発信で注目を集めるのは難しいことではありますが、やりがいのある素晴らしいチャレンジだと思います。デジタルの恩恵で、誰もが、いつでも、情報を発信できる権利を持てるようになったのですから、活用しないのは損です。

大手・上場企業だけでなく、地方や中小企業、さまざまな企業団体が情報発信をしていく、その多様性こそが日本を元気に、そして、世の中をおもしろくすると私は思っています。

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