近年、企業・団体は広報PR・マーケティングの一貫としてSNSを利用することが増えています。その際に広報PR担当者として注意したいのは「炎上」です。
炎上が起きてしまった場合、企業の評判やブランドイメージが低下するなど、経営へのさまざまな悪影響をもたらす「レピュテーションリスク(Reputation Risk)」があることを把握し、事前に対策をしておくことが大切です。
事業継続にも深刻な被害を与えかねない炎上ですが、具体的にどのような対策を行えばよいのかわからない広報PR担当者もいるのではないでしょうか。
本記事では、自社のアカウントを炎上させないために、ソーシャルメディアの運用担当者や広報PR担当者がしておきたい対策や、万が一炎上してしまったときの対処法を解説します。
そもそも「炎上」とは?炎上が広がる流れ
そもそも「炎上」とはどのような意味なのでしょうか。総務省では以下のように定義しています。
「炎上」とは、「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる状態である。
引用:総務省ホームページ
SNSは、広範囲にかつスピーディに情報を拡散できるからこそ、炎上した際の広がりも大きいもの。不祥事だけでなく風評被害により非難や誹謗中傷が殺到し、収拾がつかなくなってしまう「ネット炎上」のトラブルも相次いでいます。
炎上するプロセスにはさまざまなパターンがありますが、以下のようなプロセスで大きく広がることが一般的です。
- 情報発信
↓ - SNSでの拡散
↓ - インフルエンサーの拡散によってさらに話題に
↓ - まとめサイトや匿名掲示板など、SNS以外でも広がる
↓ - ニュースサイトにて炎上したことが記事化される
↓ - メディアで報道される
では、自社のアカウントが炎上する際に発生する悪い影響は、具体的にどのような内容なのでしょうか。次の項目で確認しておきましょう。
炎上で顕在化するレピュテーションリスクは8時間以内に対応を
例えば、企業・団体のX(旧Twitter)アカウントが炎上した際に、ネガティブな評価が広まり、企業・団体の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクのことを「レピュテーションリスク」といい、以下のようなものがあります。
- 企業・団体やブランドイメージの低下
- 得意先や既存の顧客離れに伴う業績悪化
- ビジネスチャンスの喪失
- 株価の下落
- 退職増加による人材流出や採用活動の難航 など
一般社団法人日本リスクコミュニケーション協会代表理事の大杉春子氏によると、SNS上で情報がすぐ拡散する昨今、「炎上発生後8時間以内に最初の対応が必要」とのこと。
特に、企業・団体に関する批判や中傷は、拡散されやすい傾向があります。初期にしっかり鎮火しないと、飛び火して大きな問題に発展することもあるでしょう。なお、トラブルが発生した際の「危機管理広報」や「守りの広報」については、こちらの記事で紹介しています。
広報PR担当者が気をつけたい炎上の原因4つ
では、炎上はなぜ発生するのでしょうか。炎上の原因を知り、可能な限りリスクを排除していきましょう。
1.不適切な発言・行為・失言
炎上しやすい1つ目の原因は、「公式アカウント・経営陣が発信した不適切な内容」です。
読み手やステークホルダーがどのように受け止めるかを考えきれていない投稿や、SNS運用担当者の個人的な解釈による投稿は、不適切な内容として炎上することがあります。
特に、宗教・人種・性別・ジェンダーなどセンシティブな情報への発言は炎上しやすく、これらに関わる発言には、当事者をリスペクトしつつ十分に配慮する必要があります。
例えば、「国際カミングアウトデー」に合わせた複数の企業・団体アカウントの投稿が、X(旧Twitter)上で議論の的となったことも。「カミングアウト」が持つ意味の中でも、「打ち明ける」という表面的な部分に着目し、「実は……」とハッシュタグ付きで投稿したツイートが、「記念日の重みを分かっていない」「ネタで使っていいタグではない」などの批判を受けました。
国際カミングアウトデーは、性的マイノリティーとされる人々をはじめとして、ありのままの自分を表現できずにいるすべての人がカミングアウトするきっかけの日とされています。宗教・人種・性別・ジェンダーなどに関する言葉は、その成り立ちや文化などの背景にも配慮した投稿を心がけましょう。
発信する際には、「この内容で傷つく人はいないか」「マイノリティーの存在も意識できているか」などをいま一度検討するのがベターです。
2.クレーム・批判
炎上しやすい2つ目の原因は、「クレーム」「批判」です。炎上は、企業・団体側の発信だけが原因になるとは限りません。
これまで生活者や顧客が企業・団体に対して意見や批判を届ける方法は、電話やメール等で行われていました。
しかし近年は、「購入した商品やサービスに対する批判」「商品やサービスのトラブル」「店員の対応や接客が悪かった」「CMやポスターなど広告の表現が適切ではない」などのクレームや批判が、SNSで発信されることが多くなっています。例えば、以下のような事例が想定されます。
<事例1>
商品に異物が混入していたことを生活者が画像とともにツイート。
<事例2>
飲食店で接客トラブルがあったことを、やりとりの映像や音声とともに生活者がツイート。
これらのクレームや批判は、投稿への賛同者が集まって拡散され、大きな炎上を引き起こす可能性もあります。商品やサービスのトラブルが発生することを防ぐのは難しいですが、発生した場合の対応はメディアトレーニングや危機管理マニュアルに盛り込んでおくとよいでしょう。
3.不祥事・スキャンダル
炎上しやすい3つ目の原因は、「不祥事」「スキャンダル」です。
従業員の悪ふざけによる「バイトテロ」という言葉をニュースなどで聞いたことがあるかもしれません。近年は、店舗の従業員が職務中に、不適切な画像を撮影したり、投稿したりすることで炎上し、レピュテーションリスクが顕在化したケースもありました。
その他にも、社会的な信頼を失うような企業や団体全体の不祥事や経営層のスキャンダルも、炎上に発展しやすい内容です。そもそも自社の関係者が不祥事を起こさないように、未然に防ぐための社内体制を整えることが大切です。
4.誤った情報の掲載
炎上しやすい4つ目の原因は、「誤った情報の掲載」です。
SNSの運用には、複数の社員が関わっていたり、運用を委託していたりするケースもあるでしょう。
担当者間のコミュニケーション不足、社内ルールの不徹底などから、商品・サービスに関する不適当な内容が投稿され、炎上する可能性もゼロではありません。
重要な情報は投稿前にダブルチェックをするなど、間違った情報を出さないように務めるのも重要です。
広報PR担当者が知っておきたい基本の3つの炎上対応
炎上が起きてしまう原因をできるだけ排除し、対策をしたうえでも、SNSで発信する限り、炎上をゼロにすることは難しいです。炎上してしまった際には、初期の対応が重要です。誤った対応をしたことで、さらなる炎上を生むのは避けたいところ。
では、炎上した際に、広報PR担当者はどのような対応をしたらいいのでしょうか。3つの対応方法を紹介します。
1. 謝罪 ・訂正をする
明らかに自社に過失がある場合は、謝罪・訂正をすることが一般的です。形式的な謝罪はさらなる炎上につながる可能性もあるため、「何に対して謝っているかを明確にする」「事実を客観的に伝える」「再発防止策を伝える」ことが大切です。謝罪の形式については、
- アカウント上に謝罪の文面を投稿する
- 公式に謝罪文を発表する
- 記者会見を行う
など、過失の程度や重さによって、判断しましょう。至らなかった点や誤りを明確にして真摯に謝罪し、二度と同様のことが起こらないように防止策を徹底する姿勢をはっきりと伝えます。
2. 静観・ホールディングコメントを検討する
炎上に対して、あらゆるケースでひとまず謝罪をすればよいかというと、そうではありません。戦略的に静観の姿勢をとることが、有効な場合もあります。
炎上対応の目的は謝罪ではなく、世間の注目を集めた瞬間に企業・団体としてのスタンスを明確にするという点にあります。よって、根拠のないクレームや風評被害に対してアクションをとらず、あえて落ち着くのを待つパターンもあります。
事実関係が不明確な炎上に対しては、謝罪の前に、「現在、事実関係について調査中のため、お待ちください」「判明次第、すぐにお知らせします」といった内容の「ホールディングコメント」をすることも有効です。また、事実かどうかが不明であっても、生活者を不安な気持ちにさせてしまう内容であれば、「ご心配をおかけして申し訳ございません」などと、あくまで気遣いのための謝罪を添えることで、企業・団体としての姿勢が伝わるでしょう。
炎上の内容を見極めたうえで、謝罪が必要ではない場合は様子を見て静観する、ホールディングコメントを挟むなど、謝罪以外の対応を選択肢に入れておきましょう。
3. 法的措置をとる
炎上が過激さを増し、名誉毀損に当たる可能性のあるケースでは、稀ではありますが法的措置をとることも視野に入れます。
法的処置をとることで、全社をあげて炎上に立ち向かう姿勢を世間に伝えることとなります。ただし、生活者の投稿を訴えたことによるレピュテーションリスクを負う可能性もあります。
法的措置をとる場合は、弁護士や社内の法務担当者などの専門家に相談したうえで、費用や広報PR担当者の精神的な負担も十分に協議し、メリット・懸念点を測ってから踏み切るようにしましょう。
広報PRにおいて注意したい炎上時の3つのポイント
炎上が起きた際、適切に対応するために気を付けておきたいポイントも併せて確認していきます。
1.すぐに報告・共有する
炎上を発見してしまった際は、よほど慣れていない限り頭が真っ白になり、適切な対応ができないかもしれません。対応を行う前に必ず直属の上司やチームに共有するようにしましょう。火種となってしまった発言や投稿、炎上の状況をスクリーンショットするなどして保存したものを時系列でまとめ、正確に報告するのが大切です。
担当者が単独で、その場しのぎで行った対応がユーザーからの批判を拡散してしまう事態は避けなければいけません。特に、SNSにおいては発信後の投稿を、慌てて削除するのはおすすめできません。
すでに拡散されている場合や、スクリーンショットなどが撮られている場合、削除することで「隠そうとしている」とマイナスに捉えられかねません。企業・団体としての誠実さも疑われますので、投稿を削除する際は、読み手を不快な気持ちにさせてしまったことを謝罪しつつ、削除したことを公表する、などプラスアルファの対応が必要です。
2.メディアへの対応は一貫性を持って平等に
炎上時の対応には、企業・団体として一貫性のある姿勢や発言が求められます。メディアへの対応で発言が二転三転してしまうと、メディア関係者のみならず生活者をはじめとしたステークホルダーに、疑いの目で見られてしまう可能性もあります。
炎上が起きた際は、広報PR担当部署やチームでメディアに発信する内容を取り決め、社内全体に周知するようにしておきましょう。また、大手メディアにだけ発信することは避け、平等に対応するようにしましょう。
3.問題発生の原因分析と改善を行う
炎上への対応を行いつつ、問題の原因を分析し、反省点を改善につなげることが重要です。再発防止策はホームページなどに適時開示し、プレスリリースなどで可能な限り具体的に発信し、同様のミスやトラブルは二度と起こさない、という姿勢を明確に伝えましょう。
広報PR担当者が事前に取り組みたい5つの炎上対策
炎上時の対応はもちろん重要ですが、炎上リスクを減らすための対策も忘れずにしておきたいもの。炎上対策として、広報PR担当者やSNS運用担当者が準備して取り組んでおきたいことを5つ紹介します。
1.ソーシャルメディアガイドラインを作成する
企業・団体が公式のSNSアカウントを始める際は、SNS利用に関するルールやポリシーを示す「ソーシャルメディアに関するガイドライン」を策定しておきましょう。
例えば、リリース前の新商品や個人情報、画像などは発信してはならないなど、自社が展開する商品やサービスに関しての情報は、企業・団体の理念やポリシーに通じることも多いので、細かく設定しておくようにするといいですね。
ガイドラインを作成したら、SNS運用チームや関係部署のみならず全従業員に周知することをおすすめします。
自社アカウントは運用担当者だけでなく従業員全員が閲覧していますし、担当外の従業員がいち早く炎上に気が付く場合もあります。緊急時にどうやって誰に連絡するのか、エスカレーションや業務フローをオープンにすることで、炎上時の対応がよりスムーズに行えます。
また、担当者に連絡がつかなかった際の代替策なども記すなど連絡フローを細かく設定し、対応をストップさせないことが重要です。
2.運用ルールを制定する
ガイドラインと合わせて、公式アカウントでの情報発信や投稿について、
- 担当者
- アカウントのログイン情報・パスワード
- 投稿の文言チェック体制
- 相互フォロー、新規フォロワーの管理
などの運用ルールを作成しておきましょう。
管理の頻度や、アカウントを運用するうえで「してよいこと」「してはいけないこと」なども明確にし、運用目的に合わせた「中の人」のペルソナを確立しておくこともポイントです。
3.モニタリングの仕組みを作る
企業・団体アカウントの炎上被害を最小限に抑える対策として、「モニタリング」をこまめに行うことも大切です。
モニタリングは、「ネットパトロール」「ネット監視」とも呼ばれ、ユーザーのコメントなどを含めて、インターネット上での自社に関する情報を確認する作業のことをいいます。炎上の種を拡散される前に発見し、対策を行うことができれば、炎上を最小限に留めることができます。
モニタリングは、自社で取り組むケースと、外部の専門業者に依頼するケースがあります。
自社で実施する場合は、モニタリング作業を行う人材と時間を確保しなければならないなどマンパワーも必要です。チェック漏れを防ぐため、自社で行う場合はキーワードモニタリングを行えるツールを活用するのもよいでしょう。
4.トレンドにキャッチアップする
炎上を防ぐためには、SNS運用チーム・担当者が時流・トレンドにキャッチアップすることも重要です。空いた時間にX(旧Twitter)のトレンドを確認するのはもちろん、ジェンダー、働き方、SDGsといった話題になりやすいトピックスや社会課題などに関して、どのようなツイートがインプレッションを獲得しているか頭に入れておくようにしましょう。InstagramやTik Tokなど、他のSNSにおいても最新の情報や世の中の動きを把握し、価値観をアップデートする必要があるでしょう。
5.炎上対策の研修を実施する
SNS運用チームはもちろんのこと、全社員向けにSNSに関する研修や勉強会を実施しておくこともおすすめです。
ガイドラインやマニュアルに変更や修正がある際には、メールなどで周知することもできますが、あえて研修の時間を設けて全社員へ共有することで、炎上防止のフレームワークやケーススタディを自分ごととして捉えてもらいましょう。
炎上を防ぐ!投稿前に確認したいチェックリスト
最後に、広報PR担当者やSNS運用担当者が投稿を行う前に確認しておきたいポイントをチェックリスト形式で紹介します。
炎上する原因を理解し、起こさないための対策を行おう
SNSが持つ拡散力は、時には企業・団体のイメージダウンにもつながるネガティブな情報もいち早く広がってしまうことがあります。
炎上は、予告なく想定外のタイミングで発生してしまうケースが少なくありません。万が一、炎上や、炎上による被害、問題が起こってしまった際は、その対応を通じて自社の姿勢を世の中に打ち出していくつもりで対応しましょう。もちろん要因を分析し、次に活かす仕組みづくりも大切です。
企業・団体アカウントの運用に携わる広報PR担当者やSNS運用担当者は、常日頃から炎上に対する知識を習得し、「予防策」と「炎上が起きてしまった際の対策」の2本柱で、適切な対処ができるようにしておきましょう。
<編集:PR TIMES MAGAZINE編集部>
広報が行いたいSNS利用時の炎上対策に関するQ&A
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